【三重県の社労士が解説】解雇についてのクリニックの就業規則

目次

職員さんを解雇するには条件がたくさんあります

退職も解雇も、労働契約の終了という時点では同じですが、法律上の扱いは全く異なります。

労働契約を終了させるということは、院長先生、職員さん双方にとって重要なことです。しかし、特に職員さんにとっては、唯一または最大の収入の道がなくなるわけですから、ひときわ重大な意味を持ちます。

そのため各種法律では、クリニック側が一方的に労働契約を終了させる「解雇」について、次のようにさまざまな制約を課しています。

労働基準法

  • 国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇の禁止(第3条)
  • 業務上の災害による休業期間とその後30日間、および産前産後休業期間とその後30日間の解雇の禁止(第19条)
  • 裁量労働制の適用に同意しなかったことを理由とする解雇の禁止(第38条の4)
  • 労働基準監督署への申告を理由とする解雇の禁止(第104条)

男女雇用機会均等法

  • 性別を理由とする解雇の禁止(第6条)
  • 女性労働者の婚姻、妊娠、出産、産前産後休業の請求を理由とした解雇の禁止(第9条)
  • 紛争解決の援助を求めたことを理由とする解雇の禁止(第17条、18条)

育児・介護休業法

  • 育児・介護休業の申し出、取得を理由とする解雇の禁止(第10条、16条)

労働組合法

  • 労働組合員であること、正当な労働組合活動を理由とする解雇の禁止(第7条)

これらの法律があてはまるケースでは、職員さんを解雇することがそのまま法律違反となります。決して行わないでください。

違反した場合には、罰則を課せられるものもあります。

「解雇権乱用の法理」は院長先生の必須知識

また、上記のように、法律で解雇を禁じられている状況以外でも、クリニックによる職員さんの解雇を有効とするには、いわゆる「解雇権乱用の法理」と呼ばれるものを理解しておかなくてはなりません。

これは法律用語ですが、院長先生方にとっても必須知識といえる重要なポイントです。

解雇権乱用の法理は、労働契約法の「解雇」に関する次のような定めからくるものです。

労働契約法第16条

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を乱用したものとして、無効とする。

要するに、解雇が有効とされるには、次の2つの要件を満たしていなくてはならない、ということです。

  • 客観的に合理的な理由があること
  • 社会通念上相当であること

この2つの条件を満たしていないと、たとえクリニックが解雇したつもりでも、係争になれば裁判所などの命令で復職させざるを得なくなります。

通常、その段階ではすでに両者の信頼関係は崩壊していますから、職場の空気が非常にぎすぎすしたものに変わってしまうことは容易に予想できるでしょう。

そんな事態を避けるためにも、しっかりと就業規則を整備すると同時に、法の精神に違反する無茶な解雇を行わないように心がけることが重要です。

「客観的に合理的な理由」とは

解雇権乱用の法理について、もう少し詳しく見ておきましょう。

2つの要件のうちの1つ、「客観的に合理的な理由」には、具体的には次のようなものが考えられます。

①職員さん側の事由によるもの

  1. 職員さんの能力不足、勤務成績不良、勤務態度不良、協調性欠如
  2. 職員さんの健康上の理由
  3. 職員さんの服務規律違反等の不始末

②クリニック側の事由によるもの

  1. クリニックの経営上の必要性によるもの
  2. クリニックの解散

③その他

  1. ユニオンショップ協定等の労働協約の定めによるもの

このうち、①‐1と①‐2が普通解雇、①‐3が懲戒解雇(または諭旨解雇)、②‐1が整理解雇に該当します。

また、②‐2、③‐1については例外的なケースなのでここでは扱いません。

「社会通念上相当である」とは

もう1つの要件である「社会通念上相当である」とは、解雇の事由と、解雇という処分の間のバランスがとれているということです。

合理的な理由は確かにあるが、解雇までやってしまうのはいきすぎという場合は、「相当でない」となります。

この点の判断基準としては、次の点を検討し、判断します。

  • 服務規律等の違反や勤務態度不良、協調性の欠如などについて、適切な注意、指導、監督をしていたか
  • 本人の能力不足等について教育、指導をしたか。また、人事異動等の努力をしたか
  • ほかの処分との均衡はとれているか
  • 整理解雇の場合、「整理解雇4要件」に則っているか
  • 組合つぶしなど、解雇に不当、不純な動機はないか

能力不足の職員さんに辞めてもらうときは「普通解雇」

「解雇」についての定めは「絶対的必要記載事項」

「普通解雇」は、職員さんの能力不足、あるいは健康上の理由などにより、労務の提供が不可能、あるいは不完全な状態となったために行う解雇です。

このような状態が継続し、指導や教育、配置転換などの措置を取っても是正することが不可能な場合(あるいは困難な状態と判断された場合)は、その職員さんを解雇することが可能です。

つまり普通解雇では、職員さん側の理由で、労働契約の履行ができない状態になったことが要件になります。

また、労働基準法で、解雇に関することは「絶対的必要記載事項」とされています。ですから、就業規則に解雇について記載しておかないと、労働基準法違反となります。

就業規則には、解雇となる場合の事由を列記する形で記載します。

解雇事由には、包括的な規定も入れておく

このとき、法律的に問題になるのは、就業規則に記載のない事由による解雇は許されるのかという点です。

これについては、専門家の間でも2説あります。

  • 就業規則の解雇事由は「例示列挙」にすぎない、つまり記載のない事由で解雇しても合理的で相当性があれば許される
  • 就業規則の解雇事由は「限定列挙」であり、記載のない事由による解雇は許されない

実務では、想定できる解雇事由をあげたうえで、「その他前各号に準ずる事由のあるとき」という包括的な規定を入れればOKです。

こうしておけば、たとえ係争になった場合に裁判所などが「限定列挙」の観点に立って解釈しても、実質的に「例示列挙」と同じになり、問題ありません。

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「リストラ解雇」の場合は「整理解雇の4要件」に注意

いわゆる「リストラ解雇」を行うには

経営不振による人件費圧縮など、職員さん側の理由ではなく、クリニック側の理由で職員さんを解雇せざるを得ないことがあります。こうした、クリニック側の経営上の理由で行う解雇を「整理解雇」といいます。いわゆる「リストラ解雇」です。

整理解雇を行うことが認められる条件を「整理解雇の4要件」といい、次のとおりとなります。

  1. 人員削減の必要性
  2. 解雇回避の余地がないこと
  3. 対象者の選定基準の合理性
  4. 解雇手続きの妥当性

この4つの要件を満たしていないと、解雇無効とされる可能性が大きいのです。

整理解雇の場合、普通解雇と違って職員さんの側には問題がないことも多く、トラブルに発展しやすいため、この4要件をしっかり念頭に置く必要があります。

「整理解雇の4要件」は裁判例で示された考えです(東洋酸素事件・昭和54年・東京高裁)。その後の裁判でも、これを踏襲したものが多く見られますが、その一方で、この要件にこだわらずに判断している判決も見られ、確立した判例法理(ルール)とまでは言えません。

しかしながら、この4要件が整理解雇の有効・無効の判断をする際の重要な要素であることは確かなため、実務上はこれを無視することはできません。

就業規則に記載が必要、というわけではないのですが、大事なポイントなので、それぞれより詳しく解説していきます。

⓵人員削減の必要性

これは、整理解雇を行うためには、クリニックが高度の経営危機にあることが必要ということです。ただし、倒産の危機に瀕していることまでは求められません。

クリニックの維持・発展を図り、同時に将来の経営危機に備えるためにどんな手段をとるかは、院長先生の裁量に任されています。そのために、整理解雇という手段をとることも、許されないわけではないのです。

したがって、人員削減の合理的な必要性があれば、予防型の整理解雇も認められます。

ただしその場合は、緊急避難型の整理解雇に比べてより厳格に有効性が判断されるため、万一トラブルになった場合にも十分対抗できる根拠を用意しておくことが必要です。

②解雇回避の余地がないこと

整理解雇の実施に先立って、解雇回避努力をしたかどうかも問われます。

解雇回避努力には、配置転換や出向、残業停止、新規採用の中止、昇給停止や賃金の引き下げ、一時帰休、希望退職募集などがあります。

ただし、これらの措置をすべて行わなければならないということではなく、解雇回避努力として何を行うかについては、クリニックの裁量も認められます。

例えば、「希望退職者の募集を行わなかったことをもって解雇回避努力を怠ったとはいえない」とした裁判例もあります。希望退職に伴う退職金割増の負担に耐えられない、あるいは、成績優秀者が抜けていく、といったリスクも認めたわけです。

クリニックの規模、置かれている状況などから、最大限の努力をしたと認められるかどうかがポイントになります。

③対象者の選定基準の合理性

これについては、次の各点から総合判断されます。

  • 従事する職務の現在価値、および将来の価値、および存続の可能性
  • 将来従事し得る職務
  • 人事評価など、これまでのクリニックへの貢献度
  • 年齢(生活への影響度)
  • 雇用形態(クリニックへの帰属性)  など

例えば、すでに年金支給開始年齢に達していて職を失っても生活には困窮しない職員と、働き盛りとして一家を支えている職員がいれば、前者をリストラの対象とし、後者をクリニックに残すという整理解雇を行っても、上記の各基準に照らして合理性はあると判断されうるわけです。

なお、一般的には上記の各項のなかでも、年齢や人事評価などが、対象者選定の際の主要な指標となっているようです。

ただし、能力や成果に基づく人事方式が主流となった現在の状況下では、「年齢」を整理解雇対象者の選定基準に含めることの合理性が次第に失われていく可能性があります。

また、人事評価という「過去の結果」だけでなく、将来への期待や職務転換の可能性なども、判断基準として有効とされます。

④解雇手続きの妥当性

これは、整理解雇の手続きがきちんと手順を踏んで行われているか、ということです。整理順序、整理方法、説明責任の3つのポイントで判断されます。

(1)整理順序

人員整理は、パートタイマーやアルバイトなど、非正規職員から行うのが原則です。

(2)整理方法

整理解雇に踏み切るには、その前に、希望など②の「解雇回避努力」で述べたような施策をとらねばならないということです。

(3)説明責任

職員さんに対して、経営情報を開示してクリニックが置かれている状況を説明し、整理解雇がやむを得ない措置であることを理解してもらうことです。

罵倒されることもあり、院長先生にとっては辛いところですが、整理解雇を行うには必要なステップです。

解雇するときは「解雇予告」か「解雇予告手当」が必要

30日前には、解雇を予告しておくこと

職員さんを解雇するときには、労働基準法第20条、21条の定めによって、30日以上前に「解雇予告」をしなければなりません。

職員さんの側でも、解雇されるということになれば次の職を探したりしなければなりませんから、労働者保護の観点からこれは当然のことでしょう。

また、30日以上前に解雇を予告できないときは、代わりにその職員さんの平均賃金の30日分以上の「解雇予告手当」を支払わなければなりません。

これは法的義務ですから、解雇予告をしていないのに手当を払わなければ法律違反です。素直に支払うか、きちんと30日以上前に解雇予告を行いましょう。

「即日解雇」としたいのであれば、約1カ月分の賃金は支払わないといけない、ということです(もちろんこの場合も、解雇権の濫用にならないように注意しなければなりません)

なお、解雇予告手当を支払った場合は、支払った日数分は解雇予告の期間を短縮できます。

どちらも不要の場合もある

ただし、次のどちらかの事情があり、所轄労働基準監督署長の「解雇予告除外認定」を受けた場合には、解雇予告を行わなくてもかまいません(当然、解雇予告手当の支払い義務もありません)。

  1. 天災事変その他やむを得ない事由のために、事業の継続が不可能となった場合
  2. 懲戒解雇など、労働者の責めに帰すべき事由にもとづいて解雇する場合

職員さんが問題行動におよび、懲戒解雇する場合には、解雇予告除外認定を受ければ、解雇予告も解雇予告手当も不要です。

また、次の条件にあてはまる職員さんにも、解雇予告を行わなくてよいとされています。

①日々雇い入れられる者

(1カ月を超えて引き続き使用されるに至った場合を除く)

②2か月以内の期間を定めて使用される者

(所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合を除く)

③季節的業務に4ヶ月以内の期間を定めて使用される者

(所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合を除く)

④試用期間中

(14日を超えて引き続き使用されるに至った場合を除く)

これらの内容も、解雇に関する箇所ですから絶対的必要記載事項です。必ず就業規則にも記載しておきましょう。

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「退職証明書」を求められたら交付する義務があります

法的義務なので断ることはできません

クリニックは職員さんが退職証明を請求した場合、遅滞なくこれを交付しなければなりません(労働基準法第22条)。これは法的義務なので、断ることはできません。解雇、退職のどちらの場合も同様です。

証明すべき項目は次のとおりです。

  1. 使用期間
  2. 業務の種類
  3. その事業における地位
  4. 賃金
  5. 退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む)

また、職員さんが解雇予告をされた日から退職の日までの間に、解雇の理由について証明書を請求してきたときは、クリニックは遅滞なくこれを交付しなければなりません。

ただし、解雇の予告がされた日以後に、職員さんがその解雇以外の事由により退職した場合は、証明書を交付する必要はありません。

なお、これらの証明書には、職員さんが請求しない事項を記入してはならないので気を付けなければなりません。

退職者の再就職を邪魔しないこと

クリニックは、退職する職員さんの再就職を妨げてはなりません。

第三者と謀ってその職員さんの国籍、信条、社会的身分、労働組合に関する事柄などに関する通信をしたり、退職証明書に秘密の記号を記入したりしてはならないことになっています。

クリニックを去る者にこだわって余計なトラブルの種を増やしても、何もメリットはないということです。

職員さんに属する金品は返還しなければならない

クリニックは職員さんが退職した場合(死亡による退職も含む)、権利者の請求があったときには7日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金、その他名称の如何を問わず、職員さんの権利に属する金品があれば、それを返還しなければなりません。

賃金または金品に関して争いがある場合は、クリニックは異議のない部分については7日以内に支払わなければなりません。

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対応地域(三重県全域)

三重県

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三重労働局 https://jsite.mhlw.go.jp/mie-roudoukyoku/home.html

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