無床のクリニックと入院設備がある病院では、勤務体系が異なることは当然起こります。そこで、医療機関で採用されている変形労働時間制などについて解説いたします。
病院、クリニックの時間外労働
労働時間は、労働基準法(以下「労基法」と言います)32条において、1日について8時間以内、1週間について40時間以内でなければならないと規定されています。
これに反して規定時間以上労働させることは、労基法違反となり、労基法119条により6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されることがあります。
こうした処罰適用を避けるため、労使でお互いに時間外労働・休日労働を行うことについての協定を締結し(「時間外・休日労働に関する協定))、管轄の労働基準監督署に協定届を提出する必要があります。この協定届は、労基法36条に準拠しているため、一般的には36(サブロク)協定と言われています。
なお、労使でお互いに協定を締結すれば、1か月あたり100時間でも200時間でも際限なく時間外労働をさせることが可能になるというわけではありません。過重労働の防止の観点から、厚生労働省からは時間外労働にあたって次のような基準が定められています。
期間 | 限度時間 | 期間 | 限度時間 | |
一般の労働者 | 1か月 | 45時間 | 1年 | 360時間 |
対象期間が3カ月を超える1年単位の変形労働時間制の対象労働者 | 1か月 | 42時間 | 1年 | 320時間 |
労働時間の制限
勤務にあたっては職員の希望や病院・クリニックの都合によってお互いが雇用契約を締結して労働時間を定めることになります。ですが、本人がどのような勤務も可能であると望んだとしても、法律において以下のように労働時間について制限が設けられています。
(1)18歳未満の職員に対しての労働時間の制限
18歳未満の職員を雇用する場合には、労基法60条により、時間外労働・休日労働が全面的に制限されているため、仮に本人が希望したとしても、時間外労働・休日労働をさせることができません。
(2)産前産後の職員に対しての労働時間の制限
産前産後における母性保護の見地から、以下について労働時間の制限が設けられています。
①産前の就業禁止
使用者は、6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産をする予定の女性が請求した場合には、その者を就業させてはなりません。
②産後の就業禁止
使用者は、産後8週間を経過しない女性を就業させてはなりません。ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障ないと認めた業務については制限が解除されています。
③妊産婦の職員に対しての労働時間の制限
妊産婦(妊娠中および産後1年を経過しない職員)が請求した場合においては、時間外労働・休日労働・深夜労働をさせてはいけません。
④育児・介護休業者に対しての労働時間の制限
小学校就学前の子の養育又は要介護状態の家族(配偶者、父母、子、祖父母、兄弟姉妹、孫、配偶者の父母。ただし、祖父母、兄弟姉妹、孫については同居しており扶養親族であることが要件)の介護を行う職員が請求したときは、病院・クリニックは1カ月について24時間、1年について150時間を超える時間外労働および午後10時から午前5時までの深夜労働をさせてななりません。
変形労働時間制
労働時間は、労基法32条により1日8時間、1週間40時間が原則とされています。そして、この時間を経過した時間については、時間外労働として割増賃金を支払わなければなりません。
変形労働時間制とは、業務の繁閑を一定期間でならして1週間を平均することにより、週の労働時間が40時間以内で運用できるものです。
あらかじめ勤務シフトなどにおいて9時間と定めた日に8時間以上労働をさせても、1時間超過分については時間外労働に関する割増賃金の支払いが不要となることにメリットがあります。
そのため、例えばレセプト業の時期に8時間以上の勤務シフトを組み、それ以外の時期に8時間未満の勤務シフトを組めば月間の割り増し賃金の総額が抑制されることがあります。
こうした変形労働時間制は、通常「1か月」「1年」といった期間で考えることになっており、導入や運用にあたっては、規程への記載等が必要となります。
1カ月単位の変形労働時間制
1カ月単位の変形労働時間制とは、1か月以内の期間を平均して、1週間の労働時間が40時間を超えなければ、ある特定の週に法定労働時間である1日8時間もしくは週40時間を超えて勤務させることができるという制度です。
制度の運用にあたっては、月の暦日数に応じた労働時間内で勤務シフトを組みます。
この制度の運用により、特定の週においてあらかじめ定めた1日の労働時間が8時間を超過していたとしても、そのあらかじめ定めた時間までは割り増し賃金の支払いが不要になり、人件費の抑制が可能となります。
ただし、実際の運用にあたっては、1カ月単位の変形労働時間制にて運用する旨を就業規則などに定めると同時に、あらかじめカレンダーやシフト表において労働時間を定めておく必要があります。
1年単位の変形労働時間制
「1年単位の変形労働時間制」は、1年を平均して1週間あたりの労働時間が40時間を超えない限り、協定によって特定された週は40時間を超えて、また1日は8時間を超えて労働させても時間外労働にならず、割増賃金を支払わなくてもよい制度です。
年間を通じて繁閑の差が激しい診療科を構える病院・クリニックにおいては、この「1年単位の変形労働時間制」を有効に活用することができる場合があります。
例えば、耳鼻咽喉科では花粉症の患者の多い時期と比較的患者の少ない時期とで時季によって繁閑の差がある場合があります。
また、内科ではインフルエンザの患者の多い時期、皮膚科では水虫患者の多い時期などがあります。
このような患者数の増減や業務の繁閑に合わせて、繁忙期には職員の労働日や労働時間数を増やす一方で、ある程度手の空く時期には労働日や出勤日を減らし、1年間をならして平均して1週間の労働時間が40時間以内であれば、コントロールした年間の総労働時間の範囲内での勤務が実現でき、また結果として人件費の抑制も可能となる場合があります。
この「1年単位の変形労働時間制」の設計にあたっては、仮に1日の所定労働時間が8時間であれば、年間105日の休日を設けることによって週40時間労働制を達成することができます。
実際に制度を運用するには、あらかじめカレンダーで労働日や労働時間を特定し、労使がお互いに協定を締結し、管轄の労働基準監督署に協定届を提出する必要があります。
ただし、この制度は、職員数10人未満の特例措置対象事業場には適用できませんので注意が必要です。
労働時間の管理
一般企業を中心に、不適切な労働時間の管理方法による残業代の未払いや過重労働と言った問題がみられたことで、厚生労働省は平成12年に、労働時間の管理にあたっての基準を策定しました。これは管理者(院長)に対して、労働者である職員の具体的な勤怠の把握を求めるもので、それを証左する資料としては、出勤簿への押印といった分かりにくい方法ではなくタイムカード等により運用しなければならないと決められています。
最近の労働基準監督署の調査や行政指導においても、長時間労働の対策の一環として勤怠管理の方法についての指導は主流となってきており、出勤簿に押印する勤怠管理方法を採用していたりすると、労働時間の把握が適切でないということで指導などを受ける場合がありますから注意が必要です。
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