医療機関で押さえておくべき、労働時間のポイントについて解説いたします。
労働時間とは
労働時間とは、始業から終業までの時間のうち、管理者(院長)の指揮命令のもとで労働に従事する時間のことを言います。
労働基準法(以下、「労基法」と言います)では、1日の労働時間は8時間、1週間の労働時間は40時間以内と定められ、その時間内で職員を労働させなければならず、また、基本的にこの時間内で職員の勤務シフトを組んでいかなければなりません。
しかし、病院(クリニック)の労働時間については、患者さんという「人」が相手だけに、製造ライン勤務をする労働者のような定められた勤務シフト通りの運用が難しい場面がよくあります。例えば、業務の命令がなく自主的に早朝に出勤をした場合などは労働時間になるのかならないかなど、事前に職員に対して十分な理解と周知をしておかなければトラブルになりやすく、労働時間の解釈について病院(クリニック)で統一性を持たせておく必要があります。
労働時間にあたる例 | ○ 通常の診療時間内の勤務時間 ○ 休日に出勤を命じられ勤務する時間 ○ 業務命令により外部の研修に参加する時間 など |
労働時間にあたらない例 | × 休憩時間 × 業務命令がなく休日等に任意で出勤をする勤務時間 など |
(1)休憩時間中の電話当番
病院(クリニック)の多くでは、地域や診療形態によって多少異なることがありますが、患者さんの都合に合わせて以下のような診療時間を設定して診療をしています。
午前の診療時間 | 午前9時~午後12時 |
午後の診療時間 | 午後4時~午後7時 |
こうした勤務体制の場合、午前と午後の診療時間の間に3時間程度の時間が空き、この時間は診療所内で診療行為を行わないものの、院長が往診に出かけたり、製薬会社や清掃会社などが来院するため職員はその対応が必要となる場合があります。
院長の往診の場合は、それに同行する看護職については当然その時間中は労働時間として扱うことになりますが、往診に同行することなくクリニック内に残り、雑誌を読んだりテレビを観たりしながら製薬会社や清掃会社の対応をしなければいけない場合、休憩時間中の電話当番は、労働時間なのかそうでないのか判断に迷うところです。
しかし、こうした娯楽が認められた時間であっても、その時間中の対応を随時院長などの管理者に報告しなければならないのが一般的であり、その対応において無碍な対応をすれば注意指導の対象となるため、これは管理者(院長)の指揮命令下に置かれていると捉えることができ、労働時間として扱わなければなりません。
(2)夜勤を行う場合の仮眠時間
入院病床がある病院や、クリニックにおいても産婦人科を中心に入院施設がある医療機関があります。こうした入院施設では、基本的に看護職は昼夜の二交代勤務、または三交代勤務を行うことになりますが、勤務シフトによっては夜間の勤務が15時間前後といった極めて長時間勤務となることがあります。
しかしながら。実際の勤務時間中は、そのすべての時間が患者対応等に追われるわけではなく、一定の時間の見回りや突発的業務を除いては仮眠時間として休憩時間が与えられることがあります。
しかし、仮眠時間というのは、管理者(院長)の指揮命令から完全に開放されるわけでなく、少なからずの緊張感を持ちながら仮眠をすることになり、労働から完全に開放された休憩と同じように扱うには無理がありますので労働時間として考えなければなりません。
(3)委員会活動時間
委員会活動は、クリニックよりも一定規模以上の病院においてみられるものです。通常の診療時間外に関係者が集まり、「サービス向上委員会」「ヒヤリハット委員会」と称してそれについて議論しあったり、レベルアップを図ったりする活動を行う場合があります。
通常は診療時間中に行われることはなく、診療時間終了後に関係者が集まって活動を行いますが、この活動にあたっては、任意参加ではなく委員会に参加する職員が指名されたり、参加しなければ不利益な扱いを受けることも少なくありません。
こうした強制力のある委員会活動は、管理者(院長)の指揮命令の下で参加するものと解釈されるため、労働時間として考えなければなりません。
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特例措置対象事業場
労基法32条において、1週間の労働時間は40時間と規定されていますが、以下に定める零細事業場(パートやアルバイトを含めて常時10名未満の事業場)については、1週間の労働時間を40時間ではなく44時間で置き換えて運用しても良いことになっています。
そのため、一部の医療機関においては、特例措置事業場として1週間44時間以内で勤務シフトを組むことができます。
休憩時間
休憩時間とは、労働者が勤務時間の途中において一切の労働から離れて、自由が保障されている時間を言います。運用にあたっては、労基法34条に定める3つの原則を守らなければなりません。
労働基準法34条
- 使用者は、労働時間が6時間を超える場合には少なくとも45分、8時間を超える場合においては少なくとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない
- 前項の休憩時間は一斉に与えなければならない。ただし、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表とする者との書面による協定があるときは、この限りでない。
- 使用者は、第1項の休憩時間を自由に利用させなければならない。
(1)途中付与の原則
休憩時間は、心身の疲労回復を目的とすることから、労働時間の途中において、所定労働時間の長さに応じ、以下の時間を付与しなければばりません。
所定労働時間 | 休憩時間 |
6時間以下 | 定めなし(与えなくても良い) |
6時間を超え8時間未満の場合 | 労働時間の途中に45分 |
8時間以上の場合 | 労働時間の途中に60分 |
(2)一斉付与の原則
本来、休憩時間は、労基法34条2項によると全員が一斉に取得しなければならないものですが、病院やクリニックにおいては、特定の時間により全職員が一斉に休憩を取得してしまうと、患者さんの混乱を招くなどの問題が発生するため現実的ではありません。そのため、病院やクリニックを含めて以下の業種については、例外として一斉に休憩を取らなくてもよいものとされています。
例外とされている事業 | 運送の事業 販売・理容の事業 金融、保険、広告の事業 映画、演劇、興行の事業 郵便、信書便、電気通信の事業 保健衛生の事業 旅館、飲食店、娯楽場の事業 官公庁の事業 |
(3)自由利用の原則
休憩時間は、労働者が勤務時間の途中において労働から完全に開放される時間をいいます。そのため、その利用にあたっては使用者が干渉することなく、自由に利用させなければなりません。仮に休憩時間中であっても、業務命令により何らかの業務に従事してもらうのであれば、それは労働時間として考えなければならないため、休憩時間として扱うことはできません。
休日
休日とは、そもそも労働をする義務のない日をいいます。労基法35条において、少なくとも1週間に1日(または4週間に4日)の休日を与えなければならないと規定されています。
・労働基準法35条
- 使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならない。
- 前項の規定は、4週間を通じ4日以上の休日を与える使用者については適用しない。
ここでいう1週間の1日というのは、必ずしも日曜日である必要はありません。日曜日を起算とする1週間(日曜日から土曜日)のあいだでいずれかの曜日であればよく、その週に与えられる1日の休日を法定休日といいます。
法定休日は「1日」を単位として暦日で考えることになりますので、午前0時から午後12時までの24時間が労働から完全に開放される必要があります。
なお、実務上、法定休日に出勤が業務の都合により必要になることがありますが、事前に他の出勤日と休日を変更することを「振替休日」、休日に出勤した後で、事後替わりとなる休日を取得することを「代休」といい、これらは休日の振替を事前に行ったかそうでないのかで使い分けていくことになります。
振替休日 | あらかじめ(前勤務日の終了まで)休日と労働日を入れ替えておくことをいう。 | 割増賃金の支払いは不要 |
代休 | 休日となっている日を休日振替の手続きをせずに労働させた場合、他の労働日を免除することをいう。労働した日は、休日振替の手続きを踏んでいないため、その日は割り増しの対象になる。 | 割増賃金の支払いが必要 |
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