採用面接時には、さわやかな受け答えなどによって好印象を持ち、1日も早く採用したいと決めたものの、実際に採用をしてみると職員間で不和を生じさせたり、医療人としてあるまじき言動がみられるケースがまれにあります。
面接時に人物を見抜くことができなかったと言えばそれまでですが、1回の面接だけで人物を見抜くことは大変難しいことで、大企業の人事部長ですら見誤ることもあるくらいです。
そのため、採用時にはある程度見誤ることがあるという前提で労務管理を行い、実際に入職した後にトラブルを生じさせないように、さまざまな策をあらかじめ講じておく必要があります。そうした策として、以下のような防御策が考えられます。
入職時の誓約書提出
問題行動を起こさないよう心理的に抑制効果を狙うために、多くの医療機関では入職時に「誓約書」を提出してもらうことがあります。
この誓約書を提出させることで、万が一の際にはその誓約書を根拠に損害賠償等を行うことが考えられますが、医療機関側にも管理が不十分であるなど落ち度がある場合には効力が薄くなることがあります。
試用期間の活用
採用した人材が組織において馴染んでいくことができ、職場を混乱させない人材であるかどうかという点を判断するにあたっては、試用期間を上手に利用することも考えなければなりません。
試用期間とは、職員を本採用するまでの技能や適性を判断するための期間であり、通常2か月~3か月くらいの期間の長さで運用されているケースが一般的です。この間に職員としての適性を判断して、問題があれば試用期間中または試用期間満了と同時に解雇ということになります。
ですが、医療機関によってはこうした試用期間の運用が曖昧であり、そのまま問題を抱えながら継続的に雇用していることが少なくありません。
これは、大きなリスクであり、試用期間中に問題行動があり、指導を重ねても改善の見込みがなかったりするような場合は、必要に応じて解雇を考えなければなりません。
なお、実際の運用を行うには、試用期間中には頻繁に面談を行うと同時に、就業規則において次のように記載することも考えていかなければなりません。
就業規則例
第○条(試用期間)
1 新たに採用した者については採用の日から3ヶ月の試用期間を設ける。ただし、特別の技能または経験を有する者には試用期間を設けないことがある。
2 病院が必要であると認めた場合は、さらに3ヶ月を限度(最大6ヶ月間)に試用期間を延長することがある。
3 本採用は、試用期間中の態度、発揮された能力等を総合的に勘案して決定する。
4 試用期間は勤続年数に通算する。
第○条(試用期間中または終了後の職員の解雇)
1 試用期間中または試用期間満了の際、引き続き職員として勤務させることが不適当であると認められる者については、解雇する。ただし、採用後14暦日を経過していない場合は解雇予告手当の支払は行わず、即時解雇する。
2 解雇の要件は以下のものとする。
①病院への提出書類の記載事項または面接時に申し述べた事項が、事実と著しく相違することが判明したとき。
②業務遂行に支障となるおそれがある既往症を隠していたことが判明したとき。
③第○条に定めた解雇事由に該当するとき。
④その他各号に準ずる程度のやむを得ない事由があるとき。
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トラブル発生時の対応
職員の問題行動に対しては、多くの医療機関では十分な注意をしなかったり、あるいは注意をしたとしてもそれが不十分であることが少なくありません。
注意をすることで職員が改善してくれれば良いのですが、そうでないことも現実的には多く、やがては言動がエスカレートすることによって解雇を考えなければならないこともあります。
そして、いざ職員を解雇しようとすると、当人は常日頃非常に頑張っているという自負を持っているような場合もあり、解雇される理由が分からず、不当解雇であるということでトラブルになることもあります。
そうなった際には事実関係がどのくらい証拠として残されているかが大きなポイントになります。
そういった意味では常日頃から注意や指導を行った際に「指導記録」のようなものをつけておくと証拠として残すことができ、後から「言った」「言わない」などといった水掛け論が起こることを防止することができます。
制裁にあたっての根拠
万が一、職員に問題行動がみられ、その程度が甚大である場合には、制裁を考えなければなりません。制裁には以下のようなものがあり、問題行動の程度と制裁内容が基本的には均等である必要があります。
制裁の種類
訓戒 | 口頭または文書により厳重注意をし、将来を戒める。 |
譴責 | 始末書を提出させ、将来を戒める。 |
減給 | 始末書を提出させ、1回の額が平均賃金の1日分の半額、総額が一賃金支払期における賃金総額の10分の1以内で減給する。 |
出勤停止 | 始末書を提出させ7日以内の出勤停止を命じ、その期間の賃金は支払わない。 |
諭旨退職 | 退職願を提出するよう勧告する。なお、勧告した日から3日以内にその提出がない時は懲戒解雇とする。 |
懲戒解雇 | 予告期間を設けることなく、即時に解雇する。この場合、所轄労働基準監督署長の認定を受けたときは解雇予告手当を支給しない。 |
また、罪刑法定主義という考え方に基づき制裁を課すにあたってはその根拠が具体的に就業規則などに明示されている必要があり、根拠が不明確であれば不当解雇として扱われる可能性が高くなりますので注意が必要です。
そのため、就業規則に具体的にどういうことをするとどのような制裁が課せられるのかということを明確に記載していくことが必要となります。
※罪刑法定主義とは、
どのような行為が犯罪となり、どのような刑罰が科せられるかなど犯罪と刑罰の具体的な内容が法律で定められていなければならないという原則です。
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