クリニックや病院では、非正規の職員さんが多く働いており、その存在感が増しています。この非正規職員さんの就業規則について解説します。
非正規職員さんにも就業規則は必要です
「非正規職員」にも、さまざまな形態があります
雇用の現場では多様化・個別化が急速に進んでいます。これに伴い、いわゆる「非正規職員」の存在感が増しています。
雇用者全体に占める非正社員の比率は、令和5年の時点で37.1%に達しており(総務省統計局令和5年労働力調査)、非正規社員比率は4割に迫ろうとしています。
一般には、期間の定めのない労働契約に基づいて雇用されている職員さんを「正規職員」、それに該当しない職員さんを「非正規職員」と呼びます。
しかし、必ずしも厳密な定義がされているわけではありません。パート職員さんなどで、労働契約の期間を定めていない例もあります。
長期雇用を前提にクリニック内でキャリアを形成し、フルタイムで勤務する職員さんを「正規職員」と位置づけ、それ以外の職員さんを「非正規職員」と位置付けているのが一般的です。
「非正規職員」の代表的な形態をあげると、次のようなものがあります。
- パートタイマー
- 嘱託(職員)
- アルバイト
非正規職員をめぐる法的ポイントを押さえておきましょう
非正規職員をめぐる労務トラブルが増加していますが、その一因には、非正規職員に関する法制へのクリニック側の無理解があります。
非正規職員についてはコンプライアンスを意識していても、非正規職員については「二の次」という意識の院長先生方が少なくないということです。
しかし、労務リスク管理の面でも、人材の活性化・戦力化にきちんと取り組むという意味でも、非正規職員に関するルールを定め、就業規則を整備することは必須です。
非正規職員だけに適用される規制もありますから、法的なポイントを押さえておきましょう。
有期契約期間中の「解雇」は原則できません
契約期間中の「解雇」は契約違反
非正規職員の多くは、6ヶ月や1年など、労働契約の期間をあらかじめ定めた「有期労働契約」です。
有期労働契約は、「この期間はここで働く」「この期間はここで働かせる」という労使双方の契約であるため、職員さんは原則としてその契約期間の途中でやめることはできないし、逆にクリニックも、その契約期間中はその職員さんを働かせる義務があります。
したがって、クリニックはやむを得ない事由がない限り、契約期間の途中で職員さんを解雇することができません。
労働契約法でも、第17条第1項で次のように言及しています。
第17条第1項 会社は期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
有期労働契約期間中の解雇にはさまざまなリスクがあることを、院長先生は理解しておかなくてはなりません。
「やむを得ない事由」とは何か
契約期間の途中で有期労働契約を解約するのは、「解雇」にあたります。前述のとおり、有期労働契約では、クリニックは「やむを得ない事由」がある場合でなければ、契約期間の途中で職員さんを解雇することができません。
解雇については、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」(労働契約法第16条)とする「解雇権濫用の法理」が適用されます。
しかし、労働契約期間中の解雇の場合は、それ以外の解雇の場合よりも要件が厳格に判断されます。それが「やむを得ない事由」ということだと理解してください。
この「やむを得ない事由」は、次の2つのパターンになります。
①労働者側の事由
- 労働者の非違行為
- 労働者の負傷・疾病による労務不能
②クリニック側の事由
- 業績の悪化、業務縮小
- 天災事変による事業継続困難
実際の解雇において、解雇理由が「やむを得ない事由」に該当するかどうかは、個別具体的な事案ごとに判断するしかありません。
誰が考えても、クリニック存亡の危機にあるというぐらいの重大な不都合が生じた場合と考えていいでしょう。
立証責任はクリニックにあります
また、このやむを得ない事由があったかどうかは、クリニック側に立証責任があります。
どうしても期間途中で労働契約を解除せざるを得なくなった場合、クリニックは具体的なデータなどをもとに「解雇やむなし」を客観的に証明できるようにしておかなくてはなりません。
就業規則等の定めは必須ですが、それだけではいけません
また労働契約や就業規則に、次のように解雇事由を定めておく必要があります。
【条文例】
第○条 次の各号のいずれかに該当するときは、労働契約期間の途中であっても解雇とする
- 精神や身体の障害で業務に耐えられないと認められたとき
- 勤務成績、勤務状態が不良で、改善の見込みがないとき
- 事業の縮小等により減員が必要なとき
- 天災事変その他やむを得ない事由により事業の継続が不可能となったとき
- その他前各号に準ずる事由があるとき
ただし、上記のように一定の事由が発生すれば解雇する旨を定めておけばいいという訳にはいきません。
実際に期間途中の解約があった場合、その事由がやむを得ないものと認められるかどうかは、前述のとおり個別案件ごとに判定されます。
労働基準法の解雇予告は必要
また、前述のとおり、労働契約期間中の契約解除は「解雇」にあたります。そのため、労働基準法による30日以上前の解雇予告か、平均賃金の30日分以上の解雇予告手当の支払いが必要になります。
労働基準法を始めとした各種法令にもとづく解雇制限の規制も受けますので、注意が必要です。
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有期労働契約の期間は、長すぎず短すぎず
有期労働契約の契約期間は、原則最大3年です。
例外として、以下の2つのケースについては、最大5年の契約期間が認められています。
- 60歳以上の労働者
- 厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的な知識や技術、または経験を有する労働者が、その高度な専門性を必要とされる労働契約を結ぶとき
逆に、クリニックは労働契約の期間を、必要以上に短くしないようにも配慮しなければなりません(労働契約法第17条第2項)。
これは、契約を打ち切りしやすくすることを目的に、期間を短くすることを防ぐための規定です。
仕事の内容にもよりますから具体的な期間を示すことは難しいのですが、クリニックは合理的な理由にもとづいて、長すぎず、短すぎない契約期間を定める必要があります。
なお、契約期間については、個別にパート職員さんとの労働契約書等に記載するとよいでしょう。
「雇い止め」を行うには
「雇い止め」は契約違反ではないが…
有期労働契約で、クリニックが契約期間の満了をもって労働契約を終了させることを「雇い止め」と言います。
契約期間中の解雇と異なり、もともとの定め通りに契約を終了させる行為ですから、雇い止めは契約違反ではなく、違法ではありません。
しかし、契約期間の終了直前に更新しないことを伝えると、働く人は、次の職を探す間もなく生活の糧を失ってしまいます。
また、それまでに更新を繰り返していた場合には、働く人は次も更新されるという期待感を持つことが普通です。それなのに急に雇い止めを通告されると、「そんなはずではなかった」という労務トラブルにつながります。
そのため、労働基準法第14条第2項には、「厚生労働大臣は、使用者が講ずべき労働契約の期間の満了に係る通知に関する事項その他必要な事項についての基準を定めることができる」と定められており、これに基づき、「有期労働契約の締結、更新および雇い止めに関する基準」(有期契約基準)が定められています。
そのなかで、クリニックが有期労働契約を更新しない場合には、少なくとも30日前までにその予告をしなければならないと、解雇予告同様、30日以上の予告を定めています。
ただし、これは3回以上契約を更新している職員さん、あるいは1年を超えて継続している職員さんに限ります。また、労働契約の締結時に、あらかじめ更新しない旨を明示している場合も対象外です。
契約更新を繰り返している場合は要注意です
また、状況によっては雇い止め自体が無効とされることもあるので、注意が必要です。
それは、形式上は有期労働契約であっても、実質的には期間の定めのない労働契約と変わらない状態になっている場合です。
例えば、契約更新を長期間繰り返してきており、しかも自動更新になっているなど、更新手続きが形式的なものとなっていた場合等です。
このように、実質的に期間の定めのない労働契約と変わらない状態になっている、と判断された場合、雇い止めは正規職員の解雇と同等に扱われます。
したがって、「解雇権濫用の法理」が類推適用され、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合、無効とされてしまいます。
雇い止めが解雇と同等とみなされるかどうかは、次の6つの基準によって判断されます。
①業務の客観的内容
従事する仕事の種類・内容・勤務の形態(業務内容の恒常性・臨時制・業務内容についての正規職員との同一性の有無等)で判断されます。
②契約上の地位の性格
契約上の地位の基幹性・臨時性(例えば、臨時職員等は地位の臨時性が認められる)、労働条件についての正規職員との同一性の有無等です。
③当事者の主観的態様
継続雇用を期待させる当事者の言動や認識の有無、その程度などです(採用に際しての雇用契約の期間や、更新ないし継続雇用の見込み等についてのクリニック側からの説明等)。
④更新の手続き・実態
契約更新の状況(反復更新の有無・回数、勤続年数等)、契約更新時における手続きの厳格性の程度(更新手続きの有無・時期・方法、更新の可否の判断方法等)などです。
⑤他の職員さんの更新状況
同様の地位にある他の職員さんの雇い止めの有無等も判断基準となります。
⑥その他
有期労働契約を締結した経緯や、勤続年数・年齢等の上限の設定などです。
職員さんの雇い止めはトラブルになりやすいので、専門家とも相談し、上記6つの観点から自院の非正規職員の契約状況を見直して、実質的に正規職員と変わらない、と判断されないかどうかをよく見極めることです。
更新の有無は、あらかじめ明記しておく
有期労働契約の非正規職員を雇用する場合、クリニックは職員さんに対して、契約期間満了後の更新の有無を明示しなければなりません。
また、更新する可能性がある旨を明示した場合は、契約を更新する場合、またはしない場合の判断基準も明示しなくてはなりません。
解雇理由証明書の請求があれば、交付は法的義務です
なお、雇い止めをした場合に、労働契約を更新しない理由について職員さんから証明書を請求されたときは、クリニックには遅滞なく交付する法的義務があります。
非正規職員の就業規則や処遇を考える際の注意点
パートタイマー以外の非正規職員に関する法律について
これまで述べてきたとおり、非正規職員についても就業規則は作らなくてはなりません。また、正規職員との均衡待遇、正規職員登用措置などの施策も必要でしょう。
ところで意外なことに、パートタイマー以外の非正規職員、つまりフルタイムの有期契約職員等を正面から扱った法律は存在しません。パートタイム労働法は、あくまでもパートタイマー(正確には短時間職員)に関する法律です。
フルタイムの有期契約職員は、いわば法制の死角になってしまっているのです。
そのため、フルタイムの有期契約職員に関する問題は、労働基準法などの労働諸法令・関連通達や判例などによって判断されてきました。
一方、パートタイム労働法に基づくパートタイム労働指針は、「所定労働時間が通常の労働者と同一の有期契約労働者については、短時間労働者法第2条に規定する短時間労働者に該当しないが、短時間労働者法の趣旨が考慮されるべきであることに留意すること」とフルタイム有期契約職員への配慮を求めています。
パートタイマーにも労働条件を文書で明示します
労働条件の明示項目が、正規職員よりも多い
パート職員の場合も、クリニックが労働条件を書面などで明示しなければならない義務は、正規職員の場合と同様に存在します(この点はフルタイムの非正規職員も同じです)。
ただし、パート職員の場合は、パートタイム労働法によって、次の3項目も追加して明示しなければならないことに注意してください。
- 昇給の有無
- 退職手当の有無
- 賞与の有無
なお、以下のようなケースでは、制度としては上記1~3の支給を「あり」と明示しつつ、支給されない可能性があることも同時に明示しなくてはなりません。
- 昇給や賞与について、その年の成果や業績を反映させるために、支給しない可能性がある場合
- 退職手当について、勤続年数が一定以下の場合に支給しないとしている場合
パートタイム労働法で求められる「同一職務同一賃金」
「正規職との均衡待遇」にも配慮が必要です
パートタイム労働法は、パートタイマーを次の4つに区分し、それぞれの区分ごとに、均衡待遇のあり方を規定しています。
区分1:正規職員並みのパートタイマー
区分2:正規職員と職務同一で、一定期間、異動・転勤・職務変更のあるパートタイマー
区分3:正規職員と職務同一のパートタイマー(区分1、2を除く)
区分4:アシスタント型パートタイマー
自院のパート職員さんがどの区分に該当するかは、次の3点から判断します。
- 職務内容
- 人事異動等の扱い
- 契約期間の定めの有無
この区分の違いによって、同法はそれぞれ異なる形で、「同一職務には同一の労働条件」を課すようクリニックに求めています。
パート職員は時給にするなど、支払方法が正規職員と異なるものにすることは問題ありませんが、時間当たり賃金については、正規職員と同一の職務を担当している限りは正規職員と同様にしなければなりません。
要するに、パート職員とはいえ、正規職員と同じ仕事をしているのであれば、理由もなく賃金や待遇を変えることは難しいのです。
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