【三重県の社労士が解説】クリニックの就業規則 時間外労働について

目次

時間外労働には割増賃金を支払う義務があります

時間外労働などの割増賃金はどうやって算出すればよいか

職員さんに時間外労働や休日労働をさせた場合、クリニックは割増した賃金を支払わなければなりません。これは法的義務です。

①割増率

割増率は、次のとおり定められています。

  • 法定労働時間外労働:25%以上
  • 36協定の限度時間を超える時間外労働:36協定に定めた率
  • 1か月60時間を超える法定労働時間外労働:50%以上
  • 法定休日労働:35%以上
  • 深夜労働(午後10時から午前5時):25%

なお、時間外労働や休日労働が深夜時間帯におよんだ場合、その部分については、次の通りです。

  • 時間外労働 + 深夜労働: 25% + 25% = 50%以上
  • 休日労働 + 深夜労働: 35% + 25% = 60%以上
  • 限度時間を超える時間外労働 + 深夜労働:36協定で定める率 + 25%以上
  • 1か月60時間を超える時間外労働 + 深夜労働:50% + 25% = 75%以上

②割増賃金の算定基礎

上記の割増賃金の算定基礎となるのは「時間当たり賃金」です。

そして、その「時間当たり賃金のもと」になるのは、原則として「賃金全て」です。ただし、次の賃金は除外できるとされています。

  • 家族手当
  • 通勤手当
  • 別居手当
  • 子女教育手当
  • 住宅手当
  • 臨時に支払われる賃金
  • 1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金

③1時間当たり賃金の算出方法

上記の法定除外賃金を除いた賃金すべてから、割増賃金の算定基礎となる「時間あたり賃金」を算定する方法は次のとおりです。

  • 時間給の場合は、その金額
  • 週給の場合は、週給を週の所定労働時間数で除した金額。週によって所定労働時間が異なる場合は、4週間における1週平均所定労働時間数
  • 月給の場合は、月給を月の所定労働時間数で除した金額。月によって所定労働時間が異なる場合は、1年間の1か月平均所定労働時間数

④残業時間の端数計算

また、割増賃金を支払う対象となる1日の残業時間は、原則、分単位まで出さなくてはなりません。

ただし、1カ月分の残業時間を集計した時間数に1時間未満の端数がある場合は、30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる端数処理は可能です。

これは休日労働時間、深夜労働時間についても同様です。

また、手当の端数については、次のような処理が可能です。

  • 1時間あたりの単価計算で50銭未満切り捨て、50銭以上切り上げ
  • 1か月あたりの残業手当、休日勤務手当、深夜勤務手当の計算で、50銭未満切り捨て、50銭以上切り上げ

60時間を超える時間外労働には代替休暇を与えることができます

前述のとおり、1ヵ月の時間外労働時間が60時間を超えた場合、超えた時間についての割増率は50%以上としなければなりません。

ただし、この時間に対して有給の休暇を与えることを定め、かつ現実に休暇を取得した場合は、割増賃金は25%でかまいません。これを「代替休暇」と言い、次の算式で時間数を算定します。

  • 代替休暇として与えることができる時間の時間数=(1か月の時間外労働時間数-60)× 換算率
  • 換算率 = 職員さんが代替休暇を取得しなかった場合に支払うこととされている割増賃金率(50%以上) - 職員さんが代替休暇を取得した場合に支払うこととされている割増賃金率(25%以上)
代替休暇付与例
  • 1か月の時間外労働時間:108時間
  • 1時間あたり賃金:2,000円
  • 時間外割増率:25%
  • 60時間超の割増率:50%

  • 代替休暇の時間数 = (108時間-60時間) × (0.5-0.25) = 12時間
  • 時間外手当 = 108時間 × (2,000円×1.25) = 270,000円

代替休暇の単位は1日または半日です。

また、代替休暇を付与できる期間は、1か月60時間を超える時間外労働をした月の翌月から2か月以内です。

1か月60時間を超える時間外労働を行った職員さんがいた場合、クリニックは本人に、代替休暇取得の意思があるかどうかを確認します。

取得の意思があれば、25%の割増率で支払います。

意思がない場合は、50%の割増率で支払います。なお、代替休暇の取得をクリニックが強制することはできません。

取得の意思があったものの、実際に代替休暇を取得できなかった場合は、50%の率により時間外手当を支払わなければなりません。すでに25%分は支払っているわけですから、追加で25%分を支払うことになります。

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職員さんに深夜労働をさせるには

「深夜労働」させてはならない方もいます

労働基準法上、深夜労働とは午後10時~午前5時に労働させることをいいます。

深夜労働を命じるにも就業規則の定めは必須です。

深夜労働をさせた場合、前述のとおり25%以上の割増率による割増賃金を支払わなければなりません。

注意しなくてはならないのは、たとえ時間外労働にならなくても、仕事をした時間帯が深夜になれば深夜労働をしたことになり、割増賃金の支払いが必要になるという点です。

また、満18歳未満の年少者、および妊産婦については、深夜労働をさせること自体が原則禁止されていますので、注意が必要です。

「法定」と「所定」の違いを知る

ここまで、時間外労働と休日労働について解説してきましたが、実はこの2つには、「法定時間外労働・法定休日労働」と「所定時間外労働・所定休日労働」のそれぞれ2種類があり、法律上の取扱いも異なります。2種類について、理解しておきましょう。

「法定」と「所定」の時間外労働

労働基準法では1日8時間、1週40時間が労働時間の限度とされています。これが「法定」労働時間で、この限度を超える労働が「法定」時間外労働となります。

一方の「所定」労働時間は、「法定」労働時間とは別物です。

それぞれのクリニックで、就業規則などによって定めた労働時間が「所定」労働時間です。

「所定」労働時間は、「法定」労働時間より長くすることはできませんが、クリニックによっては7時間とか7時間半など、「法定」労働時間より短い場合があります。

そのため、「所定」労働時間は超えているが、「法定」労働時間は超えていない時間帯が出てくることがあります。この時間に仕事をさせた場合を「所定」時間外労働といいます。

「法定」と「所定」の休日労働

労働基準法の休日は、1週1日または4週4日です。時間外労働と同様、この労働基準法上の休日に仕事をさせた場合は、「法定」休日労働となります。

一方、週休2日制などで、労働基準法を上回る休日制度をとっているクリニックで、その上回る休日に仕事をさせた場合を「所定休日労働」といいます(厳密には、クリニック所定の休日には法定休日も含みます。ただしここでは、クリニック所定の休日のうち、法定休日を除いた「法定外休日」を「所定休日」とします)。

割増賃金は「法定」時間外労働と「法定」休日労働のみです

時間外労働や休日労働には、「法定」と「所定」のそれぞれ2種類があります。労働基準法による規制を受けるのは、このうち「法定」の時間外労働・休日労働です。

つまり、36協定の締結や割増賃金の支払いが義務付けられるのは、あくまでも「法定」の時間外労働・休日労働のみということなのです。

例えば、所定労働時間が9:00~19:00、休憩時間が12:00~15:00だとすると、実労働時間は7時間ということになります。

このとき、もし所定労働時間を超える労働が1日1時間以内であれば、合計労働時間は8時間以内ということになり、法定労働時間を超過しませんから、36協定も割増賃金の支払いも法的には必要ありません。

同様に、週給2日制をとっているクリニックで、法定休日以外の休日に職員さんを出勤させても、この部分は「所定」休日労働となり、36協定も割増賃金の支払いも法的には必要ありません。

ただし、「所定」休日労働の結果、週の労働時間が40時間を超える場合は「法定」時間外労働となるため、36協定や割増賃金の支払いが必要となります。

では、「所定」の時間外労働・休日労働については、クリニックは何もしなくていいのかというと、そうはいきません。

前述のとおり、時間外労働・休日労働とは、クリニックと本人のもともとの契約に定めてあった労働時間や労働日を超えて仕事を命じるということなので、これを可能にするには、しかるべき契約上の根拠が必要になります。この点は、「法定」の時間外労働・休日労働であれ、「所定」の時間外労働・休日労働であれ同じことです。

したがって、「所定」の時間外労働・休日労働についても、就業規則(あるいは労働契約書)に規定しておく必要があることは変わりません。

また、「所定」の時間外労働・休日労働に対しても賃金を支払わなくてはなりません。これは、次の方法によりますから、各クリニックで選択して就業規則に定めます。

  1. 通常の労働時間の賃金を支払う
  2. 別途定めた賃金を支払う
  3. 法定時間外労働・休日労働と同じ扱いにする

以上をまとめると、次の図表のようになります。

36協定、就業規則(労働契約)、割増賃金の関係
36協定の要・不要就業規則(労働契約)への記載の要・不要賃金の割増率
所定時間外労働不要通常賃金等
所定休日労働不要通常賃金等
法定時間外労働25%割増
法定休日労働35%割増

60時間を超える時間外労働と所定休日の関係に要注意

このように、所定休日に労働させても、労働基準法上は休日労働とはなりません。所定休日労働の結果、労働時間が1週40時間を超えた場合は、「法定時間外労働」となります。

これに関して、同法の「1か月の時間外労働時間が60時間を超える場合、超えた時間についての割増率は50%以上」という規定との関係に注意しなくてはなりません。

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