退職について就業規則に記載しておくべきポイントについて解説します。
「退職」と「解雇」は全く違います
クリニックを辞めるには色々なパターンがあります
何らかの理由で職員がクリニックを辞めることを、法律用語で「労働契約の終了」といいます。
これにはさまざまなパターンがありますが、大きく分けると次の2つになります。
- 退職
- 解雇
1の退職は、次にいずれかの形で労働契約を修了させることをいいます。
・合意退職
クリニックと職員が合意の上で労働契約を終了させる
・辞職
職員が一方的に労働契約を終了させる
・自然退職
定年や契約期間満了など、あらかじめ決められた条件を満たしたために労働契約が終了する
一方、2の解雇とはクリニック側の意思で一方的に労働契約を終了させることです。
退職、解雇の主なパターンを図にすると次のようになります。
「退職」と「解雇」のパターン例
退職 | ・合意退職(職員の退職願をクリニックが受理した場合など、双方合意の上での退職) ・辞職(職員の一方的な退職) ・自然退職(あらかじめ決められた条件を満たしたために労働契約を終了する) a.有期雇用契約者の契約期間満了 b.休職期間満了 c.定年退職 d.死亡・行方不明 など |
解雇 | ・普通解雇(勤務成績不良など、やむを得ない事由による解雇) ・整理解雇(経営上の事由による解雇) ・懲戒解雇(懲戒処分としての解雇) ・諭旨解雇(懲戒処分だが、懲戒解雇より軽い場合の解雇) ・有期雇用契約の更新を繰り返している職員に対する契約更新拒否 ・試用期間中または試用期間満了後の本採用拒否 ・採用内定取り消し など |
同じクリニックを辞めるのでも、退職と解雇では、法律上の扱いが全く異なります。
就業規則について考える際にも大きな意味を持ちますから、どう違うのかしっかりと把握しておいてください。
「退職」には、さまざまなケースがあります
上記のとおり、退職には辞職、合意退職、自然退職の3種類があります。就業規則にも関係してきますから、それぞれについて解説していきます。
直前の「辞職」は受け付けなければならないのか?
職員から一方的に労働契約を解約することを、「辞職」といいます。
クリニックが行う解雇については、法令や裁判例でさまざまな制約が課せられているのに対し、職員の行う辞職についての労働法上の制約はありません(労働関係の法律は、基本的には立場の弱い職員の側に立つことが多いです)。
そのため、期間の定めのない労働契約では民法が適用され、職員はいつでも辞職、つまり労働契約の解約を申し入れることができます。そして、申し入れから2週間が経過すれば。労働契約は終了します(民法627条)。
つまり、職員からの辞職の意思表示は、退職の日の2週間前までに行われれば原則有効であり、クリニックはそれを受け入れなければならないということです(逆に、2週間前までに行わなければ、2週間が経過するまで退職日を延長させることができます)。
ただし、月給制の場合には民法に次のような規定があります。
民法627条2項
期間によって報酬を定めた場合には、解約の申し入れは、次期以降にすることができる。ただし、その解約の申し入れは当期の前半にしなければならない
この条文を適用すると、例えば賃金計算期間が毎月1日~末日の場合には、辞職の申し入れと退職日の関係を次のようにすることができます。
- 1日~15日に退職を申し出た場合 → 退職日は当月末日
- 16日~末日に退職を申し出た場合 → 退職日は翌月末日
ただし、後で書きますが、労働基準法はクリニックが労働者を解雇する場合は30日以上前の予告を義務付けています。
この解雇予告との関係で、職員からの退職については、申し入れの時期にかかわらず2週間前でよいという見解もあります。法律家などの解説書でも、「2週間前で効力発生」とするものが大半です。
実際、クリニックからの解雇が30日前の予告でできるのに、職員側からの辞職は最長1カ月半前に言わなくてはならないというのも、バランスを欠く気がします。
以上から、クリニック側の定めにかかわらず、職員からの辞職の申し入れが2週間以上前になされれば、院長先生から見ると無茶な話であっても受け入れなければならない、と考えるのが現実的でしょう。
できればすべて「合意退職」にすべき
「合意退職」は、職員が退職の意思表示をし、クリニックが承諾することによる労働契約の終了です。
辞職も合意退職も、職員の意思による「自発的退職」であることに変わりはありません。
しかし、「辞職」の場合は、職員の退職の意思がクリニック側に到達した時点以降は撤回できないのに対し、合意退職の場合は、クリニックが承諾するまで撤回が可能です。
辞職の場合は引き留めることができず、退職ならば引き留められると言えるでしょう。
ちなみに、辞職の場合に職員がクリニックに提出する書面を「辞表」といい、合意退職の場合に提出する書面を「退職願」といいます。また、名称はともかく、「○年○月○日をもって退職致します」と書かれていれば辞表、「○年○月○日をもって退職致したくお願い申し上げます」と書かれてあれば退職願ということになります。
しかし、実務の現場でそこまで意識して辞表や退職願を書くとも思えません。退職日などについてクリニックとの合意があれば「合意退職」、そのような合意がなければ「辞職」とするのが現実的です。
また、実務の現場では、職員が退職するとなると、後任者の決定、引き継ぎなど、さまざまな業務が発生します。
これらをもれなく、スムーズに行うためには、それなりに時間がかかります。
そのためクリニックとしては、職員からの自発的退職は全て合意退職とし、クリニックの承認を要件としたいところです。
そこで、「クリニックとしては双方合意の上で退職してもらいたい」という意味で、就業規則に退職を承認制とすることを記載することは可能です。
ただし、実際に「クリニックの承認がないと退職できない」ように運用することは、職員の退職の自由を制限することになり、許されません。
あくまでもクリニックからの希望として記載するだけであり、就業規則にかかわらず、職員から退職・辞職の申し入れをされた場合には受け入れなければなりません(退職まで2週間ない場合には、延長させることはできます)。
以上から、次のように対処するのが現実的です。
- 就業規則上は、職員から労働契約解除の申し入れをする場合の申し出期日とクリニックの承認を要する旨を定めておく
- 職員からの退職申し出が上記期日を切っている場合は、退職日を期日通りにするよう話し合うが、職員の意思が固い場合はそれを認める
- ただし、2週間以上の期間は義務付ける
それでは、職員が「とにかく早く辞めたい」ということで、「合意退職」ではなく「辞職」となった場合に、職員に支払う退職金を減額、または不支給とすることは可能でしょうか?
この点、過去の裁判例では、退職金不支給を無効としたケースと有効としたケースがあります。ただし、有効とした裁判例は、職員が退職までの2週間の就労義務を怠ったケースです。
したがって、辞職の場合に退職金の扱いを職員の不利益にすることは、慎重に考えた方が良いでしょう。
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「自然退職」にはいろいろなケースがあります
定年退職
定年退職とは、クリニックが定めた定年年齢に到達したら自動的に労働契約が終了する制度です。
高年齢者雇用安定法により、定年年齢を60歳未満とすることはできません。また、同法では、継続雇用制度など何らかの形での65歳までの雇用確保措置を義務付けています。
就業規則にも、定年制度と雇用確保措置についての記述をすることが必要です。
休職期間満了による退職
休職制度とは、私傷病(業務に起因しないけがや病気)やそれ以外のやむを得ない理由で、その職員を働かせることができない場合、働かせることが不適当な場合に、労働契約関係を維持しつつ、一定期間、就労を免除もしくは禁止する措置をいいます。
休職は期間を定めることが一般的で、その期間が満了しても休職事由が消滅しない場合、すなわち業務に復帰することができない場合には、退職となります。
休職期間を設ける場合は、就業規則に関連する記述が必要となります。
有期労働契約の期間満了による退職
6カ月や1年などの期間を定めた労働契約を有期労働契約と言います。契約期間が満了したら、その時点で退職となります。
ただし、一定の要件に該当する場合は、解雇とみなされることがありますので注意が必要です。
死亡、行方不明の場合
職員が不幸にして在職中に死亡した場合は、当然に退職となります。
問題は、行方不明となってしまった場合です。
この場合、「無断欠勤」扱いとして、所定の期間が過ぎたら「解雇」とする、としておく方法もあります。
しかし解雇の場合、法律上、クリニックの意思が相手方に到達することが要件となりますので、相手が行方不明の場合は少々厄介なことになります。一定期間、裁判所の掲示板に書類送付の意思を掲示する「公示送達」を行うという方法もありますが、手続等を考えると面倒です。
また、何らかの事件に巻き込まれている可能性もあり、一概に無断欠勤による解雇という扱いにするのも酷な気がします。
そのため、就業規則には次のように定めるのがいいでしょう。
- 行方不明となって一定期間が過ぎたら。(解雇ではなく)退職扱いとする
- 後日、本人が姿を見せたら事情を聴取し、本人に責任がなく、かつ、復職の希望があれば復職とする。本人に責任がある場合は、改めて普通退職または懲戒解雇とする
「退職」の手続きをクリニックが指定するには
退職の申し出時期は「30日以上前」が妥当
自発的退職については、「30日以上前」など退職申し出の時期を定めておきます。ただし、前にも書いた通り、この期日を絶対的なものとして職員に強制することはできません。
また、申し出期日を不当に長くすると、万一トラブルとなった際に無効とされる可能性もあります。
労働基準法の解雇予告が「30日以上前」とされていることとの関係上、職員側からの退職申し出も同じ程度とするのが 適当でしょう。
退職願・辞表を誰が受理するか、承認するか
合意退職の場合はクリニックが承認した時点、辞職の場合は辞表をクリニックが受理した時点で、法的に労働契約解約の効力が発生します。
では、この「クリニックの承認」、あるいは「受理」とは、どの時点のどのような行為を指すのでしょうか。例えば、直属の所属長が退職願(または辞表)を受け取った時なのか、あるいは、院長が受け取ったときなのか、どちらでしょうか?
就業規則上は「クリニックが承認した場合」という記載で十分なのですが、クリニックのルールとして、誰が退職承認の決裁権を持つか、承認の意思表示はどのように行うかなど、手続き方法を決めておくべきです。
退職する際の提出書類を指定する
職員が退職しようとするとき、本人が提出してくる書類は、退職する旨と退職日が記載されている退職願(または辞表)だけなのが一般的です。
しかし、雇用保険離職票の要・不要など、退職者についてクリニックが知っておかなくてはならない情報は他にもあります。
また、職員からクリニックに返却させるものがある場合は、それらを漏れなく伝えなくてはなりません。
こうした退職に際しての手続きを滞りなく行うためには、退職が決まった時点で、クリニックがあらかじめ作成した退職届を改めて本人に渡し、必要事項を記入の上、その他必要書類とともに提出させるようにすると便利です。
就業規則にも、その旨を記載しておきましょう。
また、クリニックが職員に貸与しているものは、当然のことながら返却させなくてはなりません。この点も明記しておきます。
さらに、退職が決まっていても、退職日まではクリニックの職員ですから、その日までは業務を遂行する義務があります。また、後任者への引き継ぎなども行わなくてはなりません。
これらは、退職者の当然の義務ですが、就業規則にも明記しておくべきでしょう。
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