「クリニックの秩序維持」をするためには就業規則で、服務規定をしっかり定めておきましょう。
就業規則に「やってはならないこと」と「やるべきこと」を定めましょう
クリニックは職員を組織し、有機的に関連付けることによってクリニックとしての事業を遂行します。当然そのためには、一定の秩序が必要になります。こうした、職場での秩序のことを「企業秩序」といいます。
判例でも、次のように企業秩序維持を使用者の権限として認めています。
企業秩序は、企業の存族と事業の円滑な運営の維持のために必要不可欠なものであり、労働者は、労働契約を締結して企業に雇用されることによって、企業に対し、労務提供義務を負うとともに、これに付随して、企業秩序遵守義務その他の義務を負う(富士重工業事件・最高裁・昭和52年)
このクリニック(企業)の秩序については、次の3つに分類できます。
- 労働の遂行に関する秩序
- 経営秩序、クリニック施設の維持管理に関する秩序
- 職場外での行動、クリニックの信用保持に関する秩序
これらのクリニックの秩序を維持し、トラブルを予防するためには、就業規則にあらかじめ「やってはならないこと」と「やるべきこと」を定めておく必要があります。これが「服務規定」と呼ばれるものです。
企業(クリニック)秩序の分類と服務規定
労働の遂行に関する秩序
- 健康に留意し、常に明朗な態度で業務を遂行すること。また、身だしなみを整え、相手に不快感を与えないこと。
- 業務は正確かつ迅速に処理し、常に業務の効率化を考えること。
- 勤務時間中は私語をせず業務に専念し、職場を勝手に離れたり、他の人の業務を邪魔しないこと。
経営秩序、クリニックの施設維持に関する秩序
- 不正にクリニックの備品を持ち出したり、クリニックや他人の金品を使わないこと。
- クリニックの許可なく、クリニックの施設内で、宗教活動や政治活動など業務に関係のない行動や活動をしないこと。
- クリニックの方針を、尊重し、規則および指示命令に従うこと。
- 職場の整理整頓を心がけ、電力・消耗品の節約に努めること。
- インターネット、電子メール等を業務以外の目的で利用してはならない。また、クリニックは職員のインターネット、電子メールの利用状況等を必要に応じて調べることができる。
職場外での行動、クリニックの信用保持に関する秩序
- クリニックの施設や車両、機械、器具などを許可なく無断で使用しないこと。
- 常に品位を保ち、私生活上も含めてクリニックの名誉を傷つける行為をしないこと。
- 酒気を帯びて就業しないこと。また、私生活と言えども飲酒運転をしないこと。
- クリニックの許可なく、在職のまま他のクリニック等の役職員に就任もしくは雇用されないこと。
- 職務上の地位を利用して、不当な金品の借用または贈与、接待などの利益を受けないこと。
- 相手方の望まない性的言動等により、他の職員に不利益を与えたり、就業環境を害すると判断される行為をしないこと。
- 職権を背景に人格を侵害する言動を繰り返し行い、他の職員に過度な精神的負担を与え、働く環境を悪化させる行為を行わないこと。
- クリニックは本規則違反その他クリニックで勤務する者に関して不祥事等の疑いがあると認められるときは、職員に対して調査を行うことがある。
- クリニックは必要に応じ、所持品検査をすることがある。
主な服務規定をまとめると以上のようになります。
服務規定は「予防策」、懲戒規程は「後始末」
前述のように、服務規定はクリニックの秩序を守るためのいわば「予防策」です。
一方、職員が現実にクリニックの秩序に反したことを行った場合には、一定の制裁を課さなくてはなりません。つまり、「予防」に失敗した場合です。
こうした場合の制裁について、就業規則に規定した条文が「懲戒規定」になります。服務規定が「予防策」であるのに対し、懲戒規定は事後策、つまり「後始末」をつけ、きっちりけじめを付けさせるための規定と言えます。
職場のルールに違反した者には、こうした「けじめ」を付けさせなければ、クリニックの秩序は維持できません。服務規定を考える際には、常にセットで、この懲戒規定についても考えていかなくてはなりません。
なお「後始末」とはいえ、懲戒規定を設けることによって、当然ながら秩序違反に対する予防的効果も見込めます。
職員の基本的な義務を定めるには
服務規定(と懲戒規定)について、具体的に見ていきます。
まずは、「労働の遂行に関する秩序」を定める規定を見ていきます。
これは、仕事上の最も基本的なルールを定める部分になります。
「労働義務」と「職務専念義務」を明記する
労働契約を結ぶことにより、職員はクリニックの業務命令にしたがって労働を提供する義務を負います。
これが「労働義務」です。
「業務命令にしたがって」というところがポイントです。つまり、業務命令に従わないで勝手に業務を遂行しても、労働義務を果たしたことにはならないのです。
また、この場合に職員が求めらているのは「完全なる労務の提供」です。
健康を害した状態や二日酔いの状態で、とにかくクリニックにいるだけというような場合は、労働義務を果たしているとはいえません。クリニックはそのような労務の提供を拒否できますし、賃金を支払う義務も発生しません。
心身の健康を保ち、日々、所定の時間に業務を開始している状態が、「労務義務を果たしている状態」とされるのです。
また、同じく、職員は就業時間中は業務に集中する義務を負います。これを「職務専念義務」と呼びます。
クリニックの許可なく職務から離れたり、職務以外の活動を行ったりすることは、職務専念義務に違反することになります。
労働義務、職務専念義務とも、労働契約を結ぶことによって職員に課せられる基本的な義務です。たとえ就業規則に記載がなくても、職員は当然にこれらの義務を負います。
しかし、クリニックの秩序維持の観点からは、これらの義務を就業規則に明記しておくことが必要です。
業務命令に従わず勝手に残業をしたり、仕事もせずにインターネットで遊んでいたのに「クリニックにはいたのだから賃金は払うべきだ」など自分勝手な理論を振りかざす人もいますし、職場に緊張感が欠けてくると、業務に関係のないことをする者も出てきます。
就業規則に労働義務と職務専念義務を明示しておくことで、こうしたことをきちんと管理し、働く人の気持ちを引き締める効果が見込めます。
服装、髪型は合理的な範囲でしか規定できない
なお、職員の服装や髪型、髪の色など、本人の人格や自由に属することは、クリニックの円滑な運営上、合理的な範囲での制限しかできません。
服装や髪型に関する「合理的な範囲」は、社会通念や職員本人の従事する職務などによっても異なります。
就業規則に記載する場合は、一般的な事項を定めておく程度にとどめましょう。業務上必要があって、より細かく規定したい場合も、内規や申し合わせ、マニュアルなどで運用するのが適当です。
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職員の私生活はどこまで規制できるか
私生活上のことでも、ある程度は規制できる
職員の私生活は、その人の自由に属することです。しかし、私生活上のことでも、クリニックの信用や秩序に悪影響を及ぼすようなことをされては困ります。
では、法律的にはどのような場合に、私生活上の行為に対する規制が有効とされるのでしょうか。判例では次のように指摘しています。
営利を目的とする会社がその名誉、信用その他相当の社会的評価を維持することは、会社の存立ないし事業の運営にとって不可欠であるから、会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるような従業員の行為については、職場外でされた職務遂行に関係のないものであっても、これに対して会社の規制を及ぼしうることは当然認められなければならない(日本鋼管事件・最高裁・昭和49年)
この判例から、「クリニックの社会的評価にどのような影響をおよぼすか」がポイントになることが分かります。
つまり、クリニックの名誉を著しく傷つけたり、クリニックの社会的評価に重大な悪影響を及ぼす場合は、職員の私生活であっても、クリニックが規定することが可能とされるのです。
「名誉を傷つける行為」とは
では、どのような場合に、「名誉を傷つけた」「社会的評価に悪影響を及ぼした」とされるのでしょうか。再び、判例を引用してみます。
従業員の不名誉な行為が会社の体面を著しく汚したというためには、必ずしも具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生を必要とするものではないが、当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から総合的に判断して、右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない
要するに、次の諸般の事情を考慮して、総合判断することになります。
- 行為の性質
- 情状
- 会社の事業の種類・態様・規模
- 会社の経済界における地位、経営方針
- その従業員の会社における地位・職種 など
職員の飲酒運転を禁止するには
飲酒運転への規制強化を図るクリニックが増えている
職員の私生活に関しては、就業規則に、飲酒運転に関する規制を入れるクリニックが増えています。
飲酒運転に起因する悲惨な事故が後を絶たないなか、飲酒運転に対する社会の目がかつてないほど厳しくなっており、また、法改正によって飲酒運転への罰則も厳しくなっています。このような社会的情勢下では、クリニックの職員が飲酒運転で事故を起こした場合、クリニックの信用や名誉にも計り知れない影響をおよぼします。
また、クリニックが職員の飲酒運転に対する規制を強化するのは、クリニックの社会的責任という点からも当然のことといえます。就業規則に飲酒運転禁止の規定を入れることは、全く問題ありません。
運転に限らず、仕事中の飲酒・酒気帯びは厳禁に
就業中の飲酒運転は、当然禁止します。
飲酒運転に限らず、就業中に酒気を帯びている状態でいること自体が、労働契約上当然に禁止される行為となります。
条文例
酒気を帯びて就業しないこと。
一般的には、このような定めを置きます。
この条文は酒気を帯びて業務につくこと全般を禁止していますから、必要十分なのですが、飲酒運転・酒気帯び運転をより明確にするため、個別の条文を追加することも考えられます。
私生活における飲酒運転に厳罰を適用するには
前述のとおり、私生活上でも、クリニックの名誉や信用を傷つける行為は禁止できます。私生活での飲酒運転を特に禁止する場合は、条文は次のようになります。
条文例
酒気を帯びて就業しないこと。また、私生活といえども飲酒運転をしないこと。
もし、職員が飲酒運転をした場合、このような規定だけでも、処罰の根拠になります。
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クリニックの秘密情報について、守秘義務を課すには
秘密保持は職員の当然の義務
クリニックの職員が、クリニックの秘密を保持しなければならないのは当然のことです。
仮に就業規則などに秘密保持の義務が明記されていなくても、労働契約上当然に発生する「誠実義務」の一つとなります。
裁判例でも次のとおり、職員の守秘義務を、労働契約上当然に発生する義務と定義しています。
労働者は労働契約に伴う附随義務として、信義則上、使用者の利益をことさら害するような行為を避けるべき義務を負うが、その1つとして使用者の業務上の秘密を漏らさないとの義務を負うものと解せられる(古河鉱業所事件・昭和55年・東京高裁)
ただし、現実に企業秘密の流出が頻繁に起こっている現状では、就業規則にもこの義務を明記し、職員の情報保護への意識を高めることが必要でしょう。
何が「クリニックの秘密の漏洩」にあたるのか
どんなときにクリニックの秘密を漏らしたとするかは、「不正競争防止法」が参考になります。
この法律では、営業秘密を「秘密として管理されている生産方法、販売方法、その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義されています。
すなわち、不正競争防止法による営業秘密とは、次の3つの要件にあてはまる情報を指します。
- 有用性:事業活動に有用な情報である
- 非公知性:公然と知られていない
- 秘密管理性:秘密として管理されている
3つの要件から、普段から秘密として管理していない情報は、営業秘密とはされないことが分かります。
そして、同法ではさらに、次の3つの要件を満たす行為が不正競争であるとして、処罰の対象としています、
- 対象となった情報が営業秘密であること
- 情報の保有者から示されたものであること
- 不正の競業その他の不正の利益を得るか、またはその保有者に損害を加えることを目的としていること
ただし、クリニックが職員に漏洩防止を義務付ける企業秘密の範囲は、この範囲に限定されるものではなく、もっと幅広いものになります。
また、不注意など3の条件に当てはまらない行為も、規制・処罰の対象にできます。
したがって、本人が不正の利益を得ることや、クリニックに損害を与えることを目的としている場合ではない場合も、不正競争には当てはまりませんが、労働契約上の義務違反として処罰の対象になり得ます。
なお、就業規則と企業秘密の保護に関して考える時には「個人情報保護法」についても押さえておく必要があります。
さらに、同法施行に伴い、厚生労働省が「雇用に関する個人情報の適正な取り扱いを確保するための事業者が講ずべき措置に関する指針」を出していますので、この指針についても理解しておいた方が良いです。
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