時間外労働、休日労働を可能にする条件
時間外労働・休日労働は3つの場合しか認められません
1日8時間、週40時間以上の労働をさせることは、原則禁止です。では、どうすれば、時間外労働や休日労働をさせることができるのでしょうか?
時間外や休日の労働が認められるのは、次の3つの場合だけです。
- 災害その他の避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合
- 公務のため臨時の必要である場合
- 労使協定がある場合
非常災害時の時間外労働とは
1.の「災害その他避けることのできない事由」については、次のような通達が出ています。
- 単なる業務の繁忙その他これに準ずる経営上の必要は認めない
- 急病、ボイラーの破裂その他、人命または公益を保護するための必要は認める
- 事業の運営を不可能にするほどの突発的な機械の故障の修理は認めるが、通常予見される部分的な修理、定期的な手入れは認めない
余程のことがないと、認められないことが分かります。
また、この「災害その他避けることのできない事由」による時間外労働をさせる場合は、事前に労働基準監督署長の許可を受ける必要があります。それができない場合は、事後に届けなくてはなりません。
ちなみに、2の「公務のため臨時の必要がある場合」は、公務員や準公務員のみに適用される規定です。
「労使協定」(36協定)によって、時間外労働が可能となります
実務的には、3の「労使協定がある場合」が重要です。
しかるべき労使協定を結ぶことで、1日8時間、週40時間の縛りから外れ、残業や休日労働を職員さんに命じることが可能になるからです。
では、どのような労使協定を結べばよいのでしょうか?
ご存じの方も多いと思いますが、それが「36協定」です。クリニックを運営するなら、この協定について必ず理解しておかなければなりません。
ちなみに、この協定が「36協定」と呼ばれる理由は、この制度が労働基準法の第36条にもとづくためです。
「36協定」でどこまで時間外労働を命じられるか
職員代表との協定、労基署への事前の届出が必須です
業務繁忙などの経営上の必要があるときに、時間外労働や休日労働を命じるには、クリニックと過半数労働組合、または職員さんの過半数代表者との間で以下のことを協定し、労働基準監督署に届け出る必要があります。
- 時間外または休日に労働させる必要のある具体的事由
- 業務の種類
- 労働者の数
- 延長すべき時間または労働させるべき休日
- 有効期間
- 時間外労働の制限時間(休日労働は含みません)
時間外労働には限度時間があります
ただし、36協定を結んだからといって、時間外労働が無制限に許されるわけではありません。
届け出の際に、時間外労働の限度時間を定めなくてはならないのですが、労働基準法第36条第2項に、次の表のように限度時間の基準が定められており、36協定の限度時間もこの基準に合致したものにしなければなりません。
時間外限度基準
通常の場合
期間 | 限度時間 |
1週間 | 15時間 |
2週間 | 27時間 |
4週間 | 43時間 |
1か月 | 45時間 |
2か月 | 81時間 |
3か月 | 120時間 |
1年間 | 360時間 |
対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制を導入している場合
期間 | 限度時間 |
1週間 | 14時間 |
2週間 | 25時間 |
4週間 | 40時間 |
1か月 | 42時間 |
2か月 | 75時間 |
3か月 | 110時間 |
1年間 | 320時間 |
つまり、1か月で考えると45時間、3カ月であれば120時間、1年間は360時間が、時間外労働を命じることができる限度となります。(1年単位の変形労働時間制を導入している場合、それぞれ42時間、110時間、320時間)
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協定時間を超えてしまうときは
しかし、現実には36協定の限度時間を超えてしまうこともあります。
それに対応する方法として、「特別条項付き36協定」というものがあります。
これは、36協定に特別条項を設け、そのなかに「①特別の事情」「②限度時間を超える場合の手続き」「③特別延長時間」「④限度時間を超えることのできる回数」を定めておけば、その範囲で限度時間を超える時間外労働を命じることができるということです。
この特別条項には、次のような制限が課せられています。
- 「特別の事情」は具体的に定める
- 「特別の事情」は、臨時的なものに限る。「臨時的」とは、その業務で特別な時間外労働をさせる期間が1年の半分を超えないということを指す
- 協定では、「1日を超え3か月以下の一定期間」について、特別な時間外労働をさせる回数を決める
なお、36協定に関する届出書類は様式が決まっています。
所轄の労働基準監督署か、厚生労働省のホームページなどから入手することができます。
限度時間を超える時間外労働に対する割増率を設定する
特別条項付き36協定を結ぶ場合、限度時間を超える時間外労働に関わる割増率を設定しなければなりません。
ただし、義務付けられているのは「設定すること」です。率をどうするかは労使の話し合いに任されており、法定の25%のままでも問題はありません。
もっとも、法の趣旨は時間外の短縮にありますから、クリニックの支払能力上可能な範囲で、この率を見直すのが望ましいと言えます。
さらに言えば、限度時間を超える時間外労働がなくなる、あるいは短くなるよう、労使で努力するべきでしょう。
この特別条項に対応した割増率は、限度時間の設定に合わせて設定します。
限度時間は「1日を超え1か月以内の一定期間」と「1年」の2とおり設定しなければなりませんから、限度時間を超える割増率も、この2とおりについて設定します。
36協定と就業規則上の定めがセットで必要です
36協定を結ぶだけではいけません
時間外・休日労働をさせるうえで、36協定は必須です。しかし、36協定だけでは、職員さんに時間外・休日労働を命じる法的根拠になりません。
そもそも、時間外労働・休日労働とは、クリニックと本人のもともとの契約に定めてあった労働時間や労働日を越えて仕事を命じるということです。
したがって、これを可能にするには、しかるべき契約上の根拠も必要なのです。つまり、就業規則(あるいは労働契約書)に残業、休日労働を命じる旨の規定がなくてはならないということです。
36協定にあるのは「刑事罰の免責効果」のみ
それなら、36協定は何のために取り交わし、届出するのかという疑問がわいてきますが、これは、「36協定は刑事的な免責効果がある」ということなのです。
つまり、36協定を結ぶと、法定の労働時間を超えて働かせても、罰則は受けないという効果があるのです。
しかし、それだけです。もし所属長が職員さんに残業を命じて、職員さんがそれに応じなかったとき、36協定だけでは、この職員さんを指揮命令違反として処罰できません(法的根拠はありません)。
残業命令を可能にするには、就業規則や労働契約に残業に関する定めがなくてはなりません。
この点、法定時間外労働、所定時間外労働(法定外時間外労働)いずれの場合でも同じです(「法定時間」は労働基準法で定められている1日8時間、週40時間の労働時間のこと。「所定労働時間」は就業規則などによって定められている労働時間のことです)。
したがって、「クリニックは業務の都合により、所定労働時間を超え、または所定休日に労働させることがある。職員は正当な理由なくこれを拒んではならない」という旨の条文を就業規則に入れる必要があります。
これで初めて、クリニックには残業を命じる根拠が、職員さんには残業命令に応じる義務が生じるのです。
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