元自動車整備士の社労士が、自動車整備業の労働時間について解説します。
自動車整備業では1年単位の変形労働時間制を採用しているところが多い
自動車ディーラーやクルマ屋さんでは「1年単位の変形労働時間制」(以下、「1年変形」という)がよく採用されています。これは、簡単に説明すると、変形期間(1カ月を超え1年以内の期間)を平均して労働時間を週40時間以内に収める制度です。
整備工場は毎年2~3月が最も車検入庫が増加する「繁忙期」となります。とりわけディーラーにおいては、この「繁忙期」はことさら忙しくなります。季節等によって業務に繁閑差があるため、例えば7月は忙しく週1日しか休日がなかった(計4日)が、8月にお盆休みも利用して12日休んで週休2日の週40時間に収める、といった運用をするわけです。
年末年始、お盆、ゴールデンウィークにまとめて休むことができる
普段は忙しく週休2日はハードルが高いと感じるクルマ屋さんも数多くあると思います。その場合、年末年始やお盆、ゴールデンウィークにまとめて休日を取るといいでしょう。毎月の休日を6日前後とする代わりに年末年始などにまとめて14日前後休むようにします。そうすれば平均して週40時間に収まり、残業時間は発生しません。
午前と午後に休憩を設けると年間休日数が大きく変わります
整備の仕事は立ちっぱなしやタイヤ脱着等で体力を使う上、車両の移動やリフト等の機械操作、ガス溶接など、一歩間違えると業務上災害につながる作業も少なくありません。板金・塗装も同様です。
事故は疲れていると発生しやすくなるため、建設現場のように午前と午後に15分ずつの休憩を設けることをお勧めします。
作業が中断して休憩するのが煩わしいときもあると思いますが、事故を未然に防ぐ必要性をきちんと説明して、休憩を挟んでもらうことが重要です。
所定労働時間が8時間の会社でこの休憩を実践すると、7時間30分に短縮される結果、1年変形の年間休日数も大幅に変わります。
通常の年の年間休日日数と労働時間・所定労働時間との関係
1日の所定労働時間 | 休日日数 | 労働日数 | 年間所定労働時間 |
8時間00分 | 105日 | 260日 | 2,080時間00分 |
7時間30分 | 87日 | 278日 | 2,085時間00分 |
その差は年間18日。つまり所定労働時間を「5分」短くするごとに、年間休日を「3日」少なくすることができます。
導入には労使協定が必要です
1年変形を採用するには、まず労使協定を締結し、所轄労働基準監督署に届け出なければなりません。この労使協定、労働法全般において頻繁に出てくる用語ですが、簡単に言うと、「労働者と使用者において合意した文書」といった意味合いになります。
この労使協定に定める内容は次のとおりです。
- 対象となる労働者の範囲
- 対象期間(1カ月を超え1年以内の期間に限る)および対象期間の起算日
- 特定期間(対象期間中の特に業務が繁忙な期間)
- 対象期間における労働日および当該労働日ごとの労働時間
また、労使協定を作成する際の主な注意点は次の点です。
- 1日の労働時間の上限は10時間
- 1週の労働時間の上限は52時間
- 連続労働日数は6日
- 特定期間の連続労働日数は12日
- 労働日数の限度は年間280日(休日は最低85日確保)
所轄労働基準監督署に届け出る際は、「1年単位の変形労働時間制に関する協定届」も合わせて提出します。
これから、自社で1年変形を採用したいと考えられていらっしゃるのなら、所定労働時間をもとに年間休日を特定し年間カレンダーの作成から始めることをお勧めします。
変形労働時間制は、対象期間が長くなれば長くなるほど、運用に関する規制が厳しくなります。つまり、1か月変形より1年変形の方が厳しくなります。
変形労働時間制の運用は複雑で分かりにくいので、どうぞ当事務所へお問い合わせください。
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自動車整備業での「定額残業代制」の活用
自動車業界においても、長時間労働の改善に向けて取り組みが行われていますが、自動車整備業では他業種に比べて残業時間が長くなっています。さらに小規模な会社では、1人の担当者が労働時間管理、給与計算等の労務管理全般を行っているケースもあります。
こうした会社では、あらかじめ固定された金額を「定額残業代」として支払う「定額残業代制」の導入による事務負担の軽減を考えられるのもいいでしょう。
この制度は、1年変形などと異なり法定の制度ではないため、明確な基準はありません。ただし会社によって相当バラつきがあり、一定額を支払えばそれ以上残業代を払わずに済み、人件費の増加を抑えることができる制度などといった誤解も目立ち、不適切な運用が続いた結果、労働基準監督署に書類送検されたり労働者から訴訟を起こされたりしたケースも多数見られます。
導入にあたっては、慎重な制度設計と従業員に対する丁寧な説明により、労働者の納得が得られたうえで導入し、適切に運用することが最も重要です。
①定額部分を上回る残業時間分の割増賃金支払に注意
定額残業代に相当する残業時間を超えた場合は、当然ながら残業代の追加支給が必要です。
例えば、給与が17万円で月平均所定労働時間が170時間、割増賃金の算定基礎となる額を1,250円(17万円÷170時間×1.25)とします。定額残業代として10時間分相当の12,500円を支給している場合に、15時間残業すると、6,250円(5時間×1250円)の支払いが追加で必要となります。
②基本給の一部を定額残業代へ変更する場合の注意点
例えば、月給15万円の従業員について、基本給12万円+定額残業代3万円と変更するような場合です。支給額は15万円で変わらないものの、基本給12万円を月の所定労働時間数で割って算出した時間単価が最低賃金を下回っているかもしれません。
最低賃金に抵触しないかは、従業員の所定労働時間と都道府県ごとの最低賃金額から判定することができます。仮に月平均所定労働時間が170時間で最低賃金が1,000円の場合、17万円が最低ラインとなります(170時間×1,000円)。
ちなみに、この月平均所定労働時間は次の計算式で求めます。
(365-年間休日数)×1日の所定労働時間÷12ヶ月
賃金規程を改定して在籍中の従業員に固定残業代制を適用する場会は、支給額だけでなく最低賃金にも十分注意が必要です。
③定額残業代制の導入手続
就業規則を作成している会社であれば、そこに定額残業代制に関する規定を追加する必要があります。従業員数10人未満で就業規則の作成義務がない会社においても、少なくとも賃金規程は作成する必要があるでしょう。
規定は、次のようになります。
(定額残業手当)
第○条 定額残業手当は、その全額を第○条の定める時間外、休日、深夜勤務の割増賃金分として支給する。
2 実際の時間外、休日、深夜労働の労働時間数に基づいて、第○条により算出した割増賃金の額が、定額残業手当を超過した場合は、その超過額を割増賃金として定額残業手当とは別に支給する。
④従業員の同意を得る
②のケースで在籍中の従業員に適用する場合、月給15万円が12万円に減額されて労働条件の「不利益変更」という問題が生じるので、原則として本人の同意がなければ変更はできません。
ただ、逆に考えれば「本人の同意があれば可能」となります。会社から変更内容について説明を受け、従業員がそれを理解したうえで同意していることが分かるような書面でもらうことを心がけましょう。
ただし、私の意見としては、このような方法を採ると従業員の会社への不満になり離職に繋がる可能性が大変大きいので、これまでの基本給に固定残業手当を上乗せさせる方法が良いと考えます。
三六協定の締結、届出
労働基準法では、「時間外・休日労働労使協定書」(以下、「三六協定」という)を締結し、労働基準監督署に届け出ることを要件として、法定労働時間を超える残業、休日労働を認めています。
経営者さんのなかには、三六協定について、次のような誤解をしている人がいらっしゃいます。
- 残業代をちゃんと支給しているから三六協定を出す必要はない
- 三六協定届は3年前に出したから問題ない
まず、1についてですが、「残業させる」と「残業代を支給する」は別問題です。三六協定は、「残業させてもいいか」という点について労働者から同意をもらうものであって、「残業は一切ない」会社以外は提出する必要があります。
次に2ですが、三六協定の有効期間は、長くて1年です。つまり、少なくとも1年ごとに届け出る必要があります。三六協定は、協定を結んだだけで有効になるわけではなく、届出が効力発生要件となっており、万が一忘れて残業をさせると、労働基準法違反となり罰則が適用されます。
残業時間は何時間まで認められるのか?
残業時間には上限が決められています。残業時間の上限は1か月45時間、1年360時間で、1年変形においては1か月42時間、1年320時間が上限となっています。
決算期の3月などは車検台数が多いので、月45時間では足らない場合があります。その場合、例えば、下記のような文言を三六協定の余白に記載して、上記の残業時間の上限を上回る残業が認められる「特別条項付三六協定」を締結します。
通常の業務量を大幅に超える○○作業等が集中し、特に納期が間に合わないときは、過半数代表者と協議の上、1年に6回を限度として、1カ月についての延長時間を○○時間まで、1年についての延長時間を○○時間まで延長することができる。なお、1カ月45時間、1年360時間を超える時間外労働に係る割増賃金率は○○%とする。なお、延長時間については労使ともに短くするように努める。
なお、「働き方改革関連法」が平成31年4月1日から施行されました。これにより、特別条項付三六協定を締結した場合であっても、時間外労働および休日労働を合算した時間数は、年720時間以内、月100時間未満、2~6ヶ月平均で80時間以内とされるので、注意が必要です。
新様式の改正点
新様式は、特別条項付とそうでない三六協定届とで様式が異なります。
さらに、「限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置」を記入する欄が新設されています。
「限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置」については、次の1~10の中から該当する番号を選んで、その具体的内容を記載しなければなりません。
- 労働時間が一定時間を超えた労働者に医師による面接指導を実施すること
- 労働基準法37条4項に規定する時刻の間において労働させる回数を1カ月について一定回数以内とすること
- 終業から始業までに一定時間以上の継続した休息時間を確保すること
- 労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、代償休日または特別な休暇を付与すること
- 労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、健康診断を実施すること
- 年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めてその取得を促進すること
- 心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること
- 労働者の勤務状況およびその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換すること
- 必要に応じて、産業医等による助言・指導を受け、または労働者に産業医等による保健指導を受けさせること
- その他
この健康確保措置の実施は、”過重労働による健康障害を防ぐ”のを目的として、労働政策審議会の報告で指針に規定するのが適当とさえれたのを受け、「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項等に関する指針」の第8条に定められました。
過半数代表者選出方法に関する注意点
「過半数代表者」とは、従業員の過半数が加入する労働組合のない事業場における時間外・休日労働協定等の当事者である労働者を代表する者のことです。
選出方法は、挙手・投票といった民主的な方法で決定するのが一般的ですが、全員が揃う機会がなく難しいといったケースも少なくありません。
厚生労働省の資料からも、不適切な方法で選出されているケースがあることがうかがえます。
そして、働き方改革関連法で、この選出方法についても次のように厳格化する改正がなされました。(下線部分が改正により追加されました)
- 法41条2号に規定する監督または管理の地位にある者でないこと
- 法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法により選出された者であって、使用者の意向に基づき選出されたものでないこと。
過半数代表者を選出する方法として「三六協定を締結する従業員代表に関する同意書」を回覧する方法があります。先に、代表者を決めておき、それに同意する従業員に署名・捺印をしてもらい過半数労働者の同意があれば、その方を選出します。これだと多少時間がかかっても全従業員の意思を確認することができ、さらに文書として保管することができます。
また、一定期間、複数の役割を果たす従業員代表を選出するケースもありますが、選出目的を限定した方が疑義を招く恐れもなく適切です。
なお、管理監督者は過半数代表者として適格ではないので注意してください。
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