「労働時間」は原則、1日8時間、週40時間まで
労働時間に関する就業規則を見ていく前に、まずは「労働時間」とは何なのか、定義から確認していきます。
「労働時間」とは何か
「労働時間」とは、休憩時間を除いた実働時間を指します。
誤解が多いのですが、休憩時間を含めた「拘束時間」とは異なります。
また、実働時間には、職員さんが現実に労働に従事している時間だけでなく、職員さんの労働力が何らかの形でクリニックの指揮監督下に置かれている時間も含みます。つまり、いわゆる「手待ち時間」も労働時間に含まれるわけです。
労働時間に対して、始業時刻から終業時刻までの時間は「拘束時間」といいます。拘束時間から休憩時間を差し引いた時間が「労働時間」になります。
この関係を整理すると、次のようになります。
拘束時間=終業時刻-始業時刻
労働時間=拘束時間-休憩時間
日や週の数え方に注意が必要です
労働基準法で、労働時間は原則1日8時間、1週40時間を超えてはならないと定められています。
「超えてはならない」のですから、本来、この時間を超えて労働者に残業をさせることは法律違反です。ただし、現実にはそれでは仕事が回りませんから、残業をさせることを可能にするための方策があります。
「8時間」とか「40時間」の規定は、労働時間についてですから、休憩時間は含まれません。
「1日」は、通常、午前0時から午後12時までの「暦日」を指しますが、クリニックではこのようなケースは少ないと思われますが、残業が長引いて午後12時を過ぎた場合は、日をまたいでいても1勤務として扱います。また、徹夜になった場合は、徹夜明けの日の始業時刻までを前日からの勤務時間としてカウントします。
「1週」は通常、日曜日~土曜日の「暦週」で数えますが、就業規則で別の決め方をすることも可能です。
例えば、月曜日から~日曜日まで など。
「労働時間」の把握算定は、クリニックの法的義務です
始業時刻と終業時刻の把握がポイント
前述の1日8時間、週40時間の制限を守るため、クリニックには職員さんの労働時間を把握算定する法的義務があります。もちろん、職員さんの的確な管理を行うという意味でも、労働時間の把握は重要です。また、賃金計算を適正に行うため、あるいは働く人の健康が長時間労働によって損なわれるのを防ぐためにも必要とされます。
この始業時刻と終業時刻の把握には注意が必要です。
「始業時刻」は、労働時間の始まりの時刻です。
拘束時間の始まりではありませんから、実際にクリニックの指揮監督下に入り、仕事ができる状態となった時間が始業時刻となります。
一方、「終業時刻」とは業務を終えた時刻です。
例えば、クリニックの所定終業時刻は19:00で、ある職員さんのタイムカード打刻時間が20:00だったとします。単純に考えると、1時間の残業です。
しかし、本当にそれでいいのでしょうか?
ポイントは、この1時間何をしていたかです。クリニックの指揮監督下におらず、仕事もしていなかったのであれば、職場に残っていたからといって残業と認めるわけにはいきません。
同様のことは始業時刻(早出残業)についてもいえます。
この問題に対応するためには、タイムカードなどによる出退勤の記録に併せて、別途「早出・残業指示書(承認書)」や「出退勤時刻承認書」を設け、そこでクリニックが指定した時間を始業・終業時刻とする、という方法を採るのがいいでしょう。
そして、残業時間として認定するのは、この申請書の時間を原則とします。
ここで問題になるのは、タイムカードの打刻時刻と、申請書の時刻に著しい乖離がある場合です。この場合、次のように対処します。
始業時刻の場合
- タイムカード打刻時刻まで働いていたと職員から請求されたときは、タイムカード打刻時刻を終業時刻とする
- クリニックが、職員はクリニックに残っていたが仕事をしていなかったという反証をあげれば、クリニックの承認した時刻を終業時刻とする
始業時刻についても、同様に扱います、
くれぐれも、「サービス残業」を強いるような状況にしないことです。
その一方で、不要な残業申請を認めないことも必要です。
ポイントは、管理者が職員さんの業務状況を把握し、適切な時間管理を行うことです。そして、不要な残業を命じないこと、職員さんが必要もないのに職場に残っていたら、帰るように促すことです。
就業規則には、このようなことを詳細に記す必要はありません。
ただ、始業・終業時刻の定義や、クリニック所定の方法で時刻を記録するべき旨を明記する必要があります。
始業時刻・終業時刻の繰り上げ・繰り下げも可能
なお、始業時刻、終業時刻を繰り上げたり、繰り下げたりすることとは、実働時間が所定労働時間の範囲内であれば可能です。
ただし、就業規則に明記しておかなくてはなりません。
条文例
業務上必要があるときは、始業・終業時刻、休憩時間を繰り上げ、または繰り下げることがある。
お問い合わせはこちら
平日 9:00~18:00
TEL 059-253-7166
ガイドラインにも気を配る必要があります
前述のとおり、クリニックには職員さんの労働時間を把握し、算定する義務があります。
しかし、現実には、把握算定方法が不完全であったり、まともに労働時間の管理をしていなかったりするため、サービス残業の問題や健康問題の発生が多く見られます。
そのため厚生労働省は、次のようなガイドラインを出して、近年、企業に対する指導を強化しています。
労働時間の適正把握基準
1.適用の範囲
管理監督者及びみなし労働時間制が適用される労働者を除くすべての者。なお、本基準の適用から除外する労働者についても、健康確保を図る必要があることから、使用者において適正な労働時間管理を行う責務がある。
2.労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置
(1)始業・終業時刻の確認及び記録
使用者は、労働時間を適正に管理するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること。
労働日ごとの労働時間数の把握のみをもって足りるとしているんものがみられるが、労働時間の適正な把握を行うためには、労働日ごとに始業・終業時刻を使用者が確認し、これを記録する必要がある。
(2)始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法
- 使用者自ら現認、記録
- タイムカード、ICカード等の客観的な記録
タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基本情報とし、必要に応じ、残業命令書などの記録と突合せをすることにより確認、記録。
(3)自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合
- 対象となる労働者に対して、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行う。
- 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施すること。
- 労働者の労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定するなどの措置を講じないこと。
労働基準監督署による指導もこのガイドラインにもとづいて行われますので、職員さんの労働時間を管理するときには、十分念頭においてください。
45分以上か1時間以上
休憩時間は、必ず与えなければなりません。
休憩時間の長さに関しては、労働基準法により次のとおり定められています。
- 労働時間が6時間を超える場合 ⇒ 45分以上
- 労働時間が8時間を超える場合 ⇒ 1時間以上
また、休憩の与え方についても、次のように定められています。
- 勤務時間の途中で与えること
- 原則として一斉に与えること
①労使協定
労働者の過半数で組織する労働組合、または労働者の過半数代表者との間で、次の2点について書面で協定を結べば、一斉に付与しなくてもよいとされています。協定すべき事項は次のとおりです。
- 休憩を一斉に与えない(分散して与える)労働者の範囲
- 分散して与える「与え方」
②労働基準法第40条が適用される場合
サービス業など一定の事業場には、一斉休憩の原則が適用されません。
このような事業場は、交代休憩のとり方などを就業規則で定める必要があります。該当する事業は、次のとおりです。
- 旅客、貨物の運送事業
- 物品の販売、または理容の事業
- 金融、保険等、または広告の事業
- 映画、演劇、その他興業事業
- 郵便、電信、電話事業
- 保健、衛生の事業 ⇒ クリニック、病院はここに当てはまります。
- 旅館、飲食店、娯楽場
- 官公署
休憩は自由利用が原則
休憩時間は、職員さんに自由に利用させなくてはなりません。
では、休憩時間中に電話当番をさせたりするケースはどうでしょうか?
このような時間は、いつでも業務に対応できるように待機している「手待ち時間」ということになり、労働時間となります。
休憩時間中の職員さんに電話番をさせているクリニックもありますが、十分注意してください。
また、休憩時間は自由利用が原則ですが、休憩時間中は職員さんは法に触れない限り何をしていてもよく、クリニックはそれに対して何でもできない、というわけではありません。
クリニックの秩序を維持するうえで、必要な制限を加えることはできます。
また、クリニック内で自由に休息できれば、外出を許可制としても法的には問題ありません。ただし、就業規則にはその旨の定めが必要です。
条文例
休憩時間は自由に利用することができる。ただし、クリニックの秩序を乱したり、他の職員の自由利用を妨げたりしてはならない。
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