【三重県の社労士が解説】採用・入職に関するクリニックの就業規則

目次

職員の採用手続きと提出書類についての記述

採用・入職に関する規定は、義務ではありませんが記載は必要です

就業規則には、必ず採用・入職時の手続きや提出書類のことを記載しておくのが良いです。

例えば、採用選考の段階では、履歴書等の書類を出してもらいます。また、採用が決まった人からは、年金手帳や現住所、扶養家族に関する書類なども出してもらいます。こうしてクリニックに提出を求められた書類が常識的な範囲のものであれば、定められた期限までに書類を揃え、提出するのが社会人としての「常識」です。

しかし、世の中には色々な人がいます。例えば、次のような人です。

  • ずぼらで期限までに提出しない人
  • 特別な信条を持っていて、提出に応じない人

こういう場合、クリニックは提出を「命令」しなければなりません。また、最悪の場合は採用取り消しということもあり得ます。こうした人事措置をとるとき、法的な根拠になるのが就業規則の規定です。

人柄や人物について、まだよく知らない人を雇うリスクに備えるために、採用・入職時の手続き等を就業規則に定めておくことは非常に重要です。

なお、就業規則は使用されている職員について定めるものなので、採用希望者については、本来は記載する必要はありません。しかし、入職手続全体を記載しておく方が、実務的に便利です。

最低限、提出を求めた方が良い書類

提出を求めた方が良い書類について、当然、履歴書、職務経歴書は必須です。また、給与や社会保険の手続きが必要になりますから、年金手帳、雇用保険被保険者証、源泉徴収票、給与所得扶養控除等申告書、健康保険被扶養者異動届なども必須になります。

院内の事務手続きのため、現住所届、通勤経路届も必ず提出させることになるでしょう。

注意した方が良いのは、卒業証明書や住民票記載事項証明書、身元保証書などです。

卒業証明書

新卒採用をする場合に、採用試験の時点で卒業見込証明書を出させながら、入職の時点で卒業証明書を求めないクリニックがよくあります。また、中途採用の場合は全く出させていないことも多いようです。

しかし、本人の申告通りに学校を卒業しているか、入職の時点でしっかり確認しておいた方が良いでしょう。「当院は学歴不問だから」という場合も、それはあくまでも採用選考時の基準の話であって、入職する人の経歴・学歴が本当かどうか、きちんと確認することとは別問題です。残念ながら、世の中には経歴を詐称して就職をしようとする人もいます。

なお、新卒採用で、卒業できなかった学生の採用をどうするかは、そのクリニックの人事政策次第です。

  • そのまま入職させる
  • 単位取得に差し支えのない範囲でクリニックに来てもらう
  • 採用取り消しにする

など、色々な方法があります。

最悪なのは、「そんなはずではなかった」というケースです。つまり、クリニックは卒業したと思っていたのに、実はまだ卒業していなかったという場合です。そのようなトラブルを避けるためにも、入職時には卒業証明書を提出させるべきでしょう。

住民票記載事項証明書

この書類は、現住所の把握のために提出してもらいます。そのため、この書類があれば現住所届の提出は省いてもいいかも知れません。

ただし、住民票の提出を求めるのは避けてください。本籍・出生地に関する情報は取得しないようにという行政指導があるため、住民票ではなく、住民票記載事項証明書にします。

身元保証書

採用内定者や入職者に、身元保証書を提出させるクリニックは多くあります。身元保証書は、身元保証契約の契約書です。

身元保証契約とは、職員がクリニックに損害を与えた場合に、身元保証人がクリニックにその損害を賠償することを約束するものです。これは、身元保証人とクリニックとの契約になります。ただし、誤解が多いのですが、身元保証契約を結んだからといって、損害が起きたときに身元保証人に損害のすべてを賠償させることはできません。

使用者の過失の有無、身元保証を引き受けるに至った経緯等、諸般の事情を考慮して裁判所が決定することとされており、通常は全額の賠償が命ぜられることはありません。

実務的には、身元保証は損害賠償のためではなく、しかるべき人が入職者の人物(社会人としての適格性、健康など)について、「大丈夫」と保証する程度のものだと考えた方が良いでしょう。

また、身元保証契約の有効期間は、5年を超えることはできません。期間を定めなかったときは、自動的に契約のときから3年とされます。

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TEL 059-253-7166

平日 9:00~18:00

要求した書類を出さない採用者への対応

「採用取り消し」まで認められるかはケース・バイ・ケースです

では、期限までに書類等を提出しなかった場合は、どう対処すればよいでしょうか?

採用時の必要書類を、正当な理由なくして提出しない場合、懲戒処分の対象となります。就業規則に記載してある懲戒であれば、これは法的にも問題ありません。

実務上も困ることが多いですし、何より、入職の時点からクリニックの指示に従わないのですから、厳正に対処すべきです。

ただし、「採用取り消し」、つまり解雇処分まで可能かどうかは、次のような点から判断されます。

  1. 提出書類が入職後の業務遂行や諸手続を行うにあたって必要性の高いものか
  2. 書類の不提出によって雇用関係に重大な支障が生じるか
  3. 当該書類の提出が採用の条件とされているか

つまり、個別の事情によって判断されるということです。いずれにせよ、就業規則には明示しておく必要があります。

提出期限も具体的に記述しておくこと

また、提出書類の提出期限を「入職の日から速やかに」として、期限を明記していない例がありますが、望ましくありません。

期限までに提出できない人の多くは、ずぼらな性格であることが原因になっています。

そういう人は、「速やかに」という記述を「そのうち」と捉えたりしますから「○○日以内」と具体的に明示すべきです。

クリニックは、労働条件を明示しなければなりません

クリニックは、職員の募集および労働契約の締結にあたって、賃金、労働時間、その他の労働条件を明示しなければなりません。さらに、パート職員さんについては、昇給の有無や退職手当の有無、および賞与の有無も、文書の交付等により明示しなければなりません。

これらの労働条件を確実に明示し、法律で定められた義務をクリアするために、職員の採用時に交付する「労働条件通知書」を用意し、必要な明示事項を記載して手渡すという方法がとられます。あらかじめテンプレートを作ってしまえば、明示事項の伝え忘れもなくなります。

この手続きは就業規則に定める必要はありませんが、コンプライアンスの面で重要ですから、忘れず行ってください。

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三重労働局 https://jsite.mhlw.go.jp/mie-roudoukyoku/home.html

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