【三重県の社労士が解説】心疾患(心臓疾患)による障害の認定要領

まずは、心疾患による障害の認定基準は次のとおりです。

目次

心疾患による障害年金認定基準

令別表障害の程度障害の状態
国年令別表1級身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの
国年令別表2級身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの
厚年令別表第13級身体の機能に、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を有するもの
認定基準

心疾患による障害の程度は、呼吸困難、心悸亢進、尿量減少、夜間多尿、チアノーゼ、浮腫等の臨床症状、X線、心電図等の検査成績、一般状態、治療及び病状の経過等により、総合的に認定するものとし、当該疾病の認定の時期以後少なくとも1年以上の療養を必要とするものであって、長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものを1級に、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものを2級に、また、労働に制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度のものを3級に該当するものと認定する。

次に、認定要領で個々に詳しく見ていきます。

心疾患による障害の認定要領

(1)ここで述べる心疾患とは、心臓だけでなく、血管を含む循環器疾患を指します。(ただし、血圧については「高血圧症による障害」で認定が行われるのでここでは除きます)

心疾患による障害は、弁疾患、心筋疾患、虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)、難治性不整脈、大動脈疾患、先天性心疾患に区分されます。

(2)心疾患の障害等級認定は、最終的には心臓機能が慢性的に障害された慢性心不全の状態を評価することです。この状態は虚血性心疾患や弁疾患、心筋疾患などのあらゆる心疾患の終末像です。

慢性心不全とは、心臓のポンプ機能の障害により、体の末梢組織への血液供給が不十分となった状態を意味し、一般的には左心室系の機能障害が主体となりますが、右心室系の障害も考慮に入れなければなりません。左心室系の障害により、動悸や息切れ、肺うっ血による呼吸困難、咳・痰、チアノーゼなどが、右心室系の障害により、全身倦怠感や浮腫、尿量減少、頚静脈怒張などの症状が出現します。

(3)心疾患の主要症状としては、胸痛、動悸、呼吸困難、湿疹等の自覚症状、浮腫、チアノーゼ等の他覚所見があります。

臨床所見には、自覚症状(心不全に基づく)と他覚所見がありますが、後者は医師の診察により得られた客観的症状なので常に自覚症状と連動しているか否かに留意する必要があります(以下、各心疾患に同じ)。重症度は、心電図、心エコー図・カテーテル検査、動脈血ガス分析値も参考とされます。

(4)検査成績としては、血液検査(BNP値)、心電図、心エコー図、胸部X線、X線CT、MRI等、核医学検査、循環動態検査、心カテーテル検査(心カテーテル法、心血管造影法、冠動脈造影法等)等があります。

(5)肺血栓塞栓症、肺動脈性肺高圧症は、心疾患による障害として認定が行われます。

(6)心血管疾患が重複している場合には、客観的所見に基づいた日常生活能力等の程度を十分考慮して総合的に認定が行われます。

(7)心疾患の検査での異常検査所見を一部示すと、次のとおりです。

区分異常検査所見
A安静時の心電図において、0.2mV以上のSTの低下もしくは0.5mV以上の深い陰性T波(aVR誘導を除く。)の所見があるもの
B負荷心電図(6Mets未満相当)等で明らかな心筋虚血所見があるもの
C胸部X線上で心胸郭係数60%以上又は明らかな肺静脈性うっ血所見や間質性肺水腫のあるもの
D心エコー図で中等度以上の左室肥大と心拡大、弁膜症、収縮能の低下、拡張能の制限、先天性異常のあるもの
E心電図で、重症な頻脈性又は徐脈性不整脈所見のあるもの
F左室駆出率(EF)40%以下のもの
GBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)が200pg/mL相当を超えるもの
H重症冠動脈狭窄病変で左主幹部に50%以上の狭窄、あるいは、3本の主要冠動脈に75%以上の狭窄を認めるもの
I心電図で陳旧性心筋梗塞所見があり、かつ、今日まで狭心症状を有するもの

(注1)原則として、異常検査所見があるもの全てについて、それに該当する心電図等を提出すること。

(注2)「F」についての補足

心不全の原因には、収縮機能不全と拡張機能不全とがあります。近年、心不全症例の約40%はEF値が保持されており、このような例での心不全は左室拡張不全機能障害によるものとされています。しかしながら、現時点において拡張機能不全を簡便に判断する検査法は確立されていません。左室拡張末期圧基準値(5~12mmHg)をかなり超える場合、パルスドプラ法による左室流入血流速度波形を用いる方法が一般的です。この血流速度波形は急速流入期血流速度波形(E波)と心房収縮期血流速度波形(A波)からなり、E/A比が1.5以上の場合は、重度の拡張機能障害と言えます。

(注3)「G」についての補足

心不全の進行に伴い、神経体液性因子が血液中に増加することが確認され、心不全の程度を評価する上で有用であることが知られています。中でも、BNP値(心室で生合成され、心不全により分泌が亢進)は、心不全の重症度を評価する上でよく使用されるNYHA分類の重症度と良好な相関性を持つことが知られています。この値が常に100pg/mL以上の場合は、NYHA新機能分類でⅡ度以上と考えられ、200pg/mL以上では、心不全状態が進行していると判断されます。

(注4)「H」についての補足

すでに冠動脈血行再建が完了している場合は除きます。

(8)心疾患による障害の程度を一般状態区分表で示すと次のとおりです。

区分一般状態
無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの
軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働、座業はできるもの 例えば、軽い家事、事務など
歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの
身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの
身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの
一般状態区分表

(参考)上記区分を身体活動能力にあてはめると概ね次のとおりとなります。

区分身体活動能力
6Mets以上
4Mets以上6Mets未満
3Mets以上4Mets未満
2Mets以上3Mets未満
2Mets未満

※Metsとは、代謝当量をいい、安静時の酸素摂取量(3.5mL/kg体重/分)を1Metsとして活動時の酸素摂取量が安静時の何倍かを示すものです。

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(9)各疾患別に各等級に相当すると認められるものを一部例示すると次のとおりです。

弁疾患

障害の程度障害の状態
1級病状(障害)が重篤で安静人においても、心不全の症状(NYHA心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの
2級1 人工弁を装着術後、6カ月以上経過しているが、なお病状をあらわす臨床所見が5つ以上、かつ、異常検査所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
2 異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち2つ以上の所見、かつ、病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
3級1 人工弁を装着したもの
2 異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち1つ以上の所見、かつ、病状をあらわす臨床所見が2つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの

(注1)複数の人工弁置換術を受けている者にあっても、原則3級相当とされます。

(注2)抗凝固薬使用による出血傾向については、重度のものを除き認定の対象とされません。

心筋疾患

障害の程度障害の状態
1級病状(障害)が重篤で安静時においても、心不全の症状(NYHA心機能分類クラスⅣ)を有し、一般状態区分表のオに該当するもの
2級1 異常検査所見のFに加えて、病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
2 異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち2つ以上の所見及び心不全の病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
3級1 EF値が50%以上を示し、病状をあらわす臨床所見が2つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの
2 異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち1つ以上の所見及び心不全の病状をあらわす臨床所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの

(注)肥大型心筋症は、心室の収縮は良好に保たれるが、心筋肥大による心室拡張機能障害や左室流出路狭窄に伴う左室流出路圧較差などが病態の基本となっています。したがってEF値が障害認定にあたり、参考とならないことが多く、臨床所見や心電図所見、胸部X線検査、心臓エコー検査所見なども参考として総合的に障害等級が判断されます。

虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)

障害の程度障害の状態
1級病状(障害)が重篤で安静時においても、常時心不全あるいは狭心症状を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの
2級異常検査所見が2つ以上、かつ、軽労作で心不全あるいは狭心症などの症状をあらわし、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
3級異常検査所見が1つ以上、かつ、心不全あるいは狭心症などの症状が1つ以上あるもので、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの

(注)冠動脈疾患とは、主要冠動脈に少なくとも1か所の有意狭窄をもつ。あるいは、冠攣縮が証明されたものをいい、冠動脈造影が施行されていなくとも心電図、心エコー図、核医学検査等で明らかに冠動脈疾患と考えられるものも含まれます。

難治性不整脈

障害の程度障害の状態
1級病状(障害)が重篤で安静時においても、常時心不全の症状(NYHA心機能分類クラスⅣ)を有し、一般状態区分表のオに該当するもの
2級1 異常検査所見のEがあり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
2 異常検査所見のA、B、C、D、F、Gのうち2つ以上の所見及び病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
3級1 ペースメーカー、ICDを装着したもの
2 異常検査所見のA、B、C、D、F、Gのうち1つ以上の所見及び病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの

(注1)難治性不整脈とは、放置すると心不全や突然死を引き起こす危険性の高い不整脈で、適切な治療を受けているにも拘わらず、それが改善しないものを言います。

(注2)心房細動は、一般に加齢とともに漸増する不整脈であり、それのみでは認定の対象とはならないが心不全を合併したり、ペースメーカーの装着を要する場合には認定の対象となります。

大動脈疾患

障害の程度障害の状態
3級1 胸部大動脈解離(Stanford分類A型・B型)や胸部大動脈瘤により、人工血管を挿入し、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの
2 胸部大動脈解離や胸部大動脈瘤に、難治性の高血圧を合併したもの

(注1)Stanford分類A型:上行大動脈に解離がある。 Stanford分類B型:上行大動脈まで解離が及んでいないもの。

(注2)大動脈瘤とは、大動脈の一部がのう状又は紡錘状に拡張した状態で、先天性大動脈疾患や動脈硬化(アテローム硬化)、膠原病などが原因となります。これのみでは認定の対象とはなりませんが、原疾患の活動性や手術による合併症が見られる場合には、総合的に判断されます。

(注3)胸部大動脈瘤には、胸腹部大動脈瘤も含まれます。

(注4)難治性高血圧とは、塩分制限などの生活習慣の修正を行ったうえで、適切な薬剤3薬以上の降圧薬を適切な用量で継続投与しても、なお、収縮期血圧が140mmHg以上又は拡張期血圧が90mmHg以上のもの。

(注5)大動脈疾患では、特殊な例を除いて心不全を呈することはなく、また最近の医学の進歩はあるが、完全治癒を望める疾患ではありません。従って、一般的には1・2級には該当しないが、本疾病に関連した合併症(周辺臓器への圧迫症状など)の程度や手術の後遺症によっては、さらに上位等級に認定されます。

  • 大動脈瘤の定義:嚢状のものは大きさを問わず、紡錘状のものは、正常時(2.5~3cm)の1.5倍以上のものをいいます。(2倍以上は手術が必要です。)
  • 人工血管にはステントグラフも含まれます。

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先天性心疾患

障害の状態障害の状態
1級病状(障害)が重篤で安静時においても、常時心不全の症状(NYHA心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの
2級1 異常所見が2つ以上及び病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
2 Eisenmenger化(手術不可能な逆流状況が発生)を起こしているもので、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
3級1 異常検査所見のC、D、Eのうち1つ以上の所見及び病状をあらわす臨床所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの
2 肺体血流比1.5以上の左右短絡又は肺動脈収縮期50mmHg以上のもので、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの

重症心不全

心臓移植や人工心臓を装着した場合の障害等級は、次のとおりです。ただし、術後は次の障害等級に認定するが1~2年程度経過観察したうえで症状が安定しているときは、臨床症状、検査成績、一般状態区分表を勘案し、障害等級を再認定します。

  • 心臓移植  1級
  • 人工心臓  1級
  • CRT(心臓再同期医療機器)、CRT‐D(除細動器機能付き心臓再同期医療機器)  2級

(10)心臓ペースメーカー、又はICD(植込み型除細動器)、又は人工弁を装着した場合の障害の程度を認定すべき日は、それらを装着した日(初診日から起算して1年6カ月を超える場合を除く)とされます。

(11)各疾患によって、用いられる検査が異なっており、また、特殊検査も多いため、診断書上に適切に症状をあらわしていると思われる検査成績が記載されているときは、その検査成績も参考とし、認定時の具体的な日常生活状況等を把握して総合的に認定が行われます。

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